『Confirmation: fractalized』 fractanisharmonicoo
だいたいにおいて人は学部2年生ぐらいの頃に電化マイルスにのめり込む。別にアンケートを取ったわけでもないので知らないが、まあたぶんそうだと思う。あの、さりげなく意味ありげで呪術的でオリエンタリズムを刺激する、ときどきめちゃくちゃ面白くてしばしば結構グダグダになり、とにかく所要時間が長く集中力が必要で、しかもたしかにそこで他のどこにもない何かを見つけ出そうとしている野心的なコンテンツに正面切って向き合えるのがちょうどその時期だということだ。もちろん世の中には色んな人がいて、仕事を辞めて電化マイルスと向き合う人もいる。このブログ好きです。僕も仕事を辞めたらマイルスのブートを漁りたい。
とにかく、僕も例に漏れずその頃立て続けに電化マイルスを何枚も聴いた。『In A Silent Way』と『Agharta』が特に良いと思う。今でもわりあい時間が取れるときにはつい手を伸ばしてしまう。前者はトランペットを頼りに夜を泳いでいくような没入感があり、後者は仄暗く密教的で、しかし一種異様な熱量を帯びた一触即発のファンクミュージックだ。
それで、fractanisharmonicooの話だ。本当に一挙手一投足から目を離したくなくて、東方アレンジでこんな気持ちになったのはもしかすると初めてかもしれない。Demetoriなんかは僕が聴き始めた頃には既にできあがってしまっていた。何しろ1枚目、『Re:Lease』が出たときには本当に参ってしまった。メロトロン(のような鍵盤)、ギターのタペストリー、歌い継ぐようなサックス、奥行きのある録音、静と動……。そして、タイトルにはたしかに音楽的回顧のニュアンスが含まれているように感じる。既存のイディオムを徹底的な完成度と質感で組み上げ直したアルバムではないかと思う。
ライブ盤を挟んだ2枚目の『Confirmation: fractalized』にも基本構成は引き継がれていながら、こちらでは随所で異なるアプローチが取られている。いくつかの曲で効果的に使われる電子音は、しかしクラブジャズ的なスムーズに踊れるビートではなく、ゲーム由来のグリッチ的な聴き手を幻惑するニュアンスを示している。演奏はよりフリーキーだ。
「The Polar Day, The Polar Night」というパワフルかつ人懐っこさも兼ね備えた必殺の一曲を聴いて、どんな野心的な冒険にも最後までついていく準備ができた観客は、最後に「竹取の願」組曲へと連れ出される。ひりひりしている。本当にひりひりしている。これは見たことのない景色だ。そうだ、昔からいつでも、こういう景色に出会うために音楽を聴いているのだったと思う。