見返り美人
彼女はとても美人だった。
クラスに限らず学校内、他の学校でも噂されるほど。
それに加えて勉強もできて誰にでも優しく、天が二物を与えすぎたような人だった。
そんな彼女を、周りは必要とした。それは、一緒にいることで地位を向上させようと企む輩が都合よく使っているように見えた。
だから、ある時聞いてしまった。
僕と彼女以外誰もいない教室で。
なんとなく許せなかった。上辺だけの付き合いをしている奴らが。それを分かっていながら何もしない彼女が。
「なんで君は色々な人にいい顔をしているの。」
僕はまっすぐに伝えた。言葉選びは間違えたかもしれないけれど、悪意はない。
すると彼女はまっすぐに伝える。
「あなたは私に何をくれる?」
答えになっていなかった。黙っていると彼女は続ける。
「所詮、人間は対価を支払わなければそれ相応の何かをくれないから。」
「そうでも無いんじゃない?」
「……現に、みんなは私の美しさとか学力とか取り繕った部分しか求めてないのよ。」
「……自分で美しいとか言っちゃうんだ。」
「言う。事実だからね。」
彼女はニヤリと笑う。それは、普段人前で見せるそれとは違う、卑しさを感じる。
「ただでさえ、美しい私に毎日会えるのよ?でも、それだけじゃ何も出そうとしない。だから、付加価値として優しくしてやってんのよ。それ相応の見返りを求めてるって事。」
「……性格は不細工なんだなぁ。」
彼女は僕をじっと見る。
「で?あなたは何をくれるの?」
「……僕は何もあげられない。」
「そうよね。あなたには何も与えてないから。」
「そうじゃない。僕は君ほど器用じゃないから、あげられるものは何も無い。でも……。」
「なに?」
ここで言ったら、きっとこの先ずっとあげなければいけない。その覚悟が僕にあるだろうか。
「……時間ならあげられる。こうやって息抜きできるくらいの時間は。」
彼女からは何の返答もない。やはり間違っていたのか。
彼女はおもむろに僕に背を向け考え込む。そして、
「いるのかもしれない。」
「え?」
「対価を支払わなくても、与えてくれる人間が。」
彼女は振り返って笑顔を浮かべていた。
彼女は今でも美しい。