素材・化学分野におけるアクセラレータープログラムの開始 〜 Deep Techスタートアップ×大企業による社会課題解決の可能性 〜
はじめまして、Plug and Play JapanのNarumi Araiと申します。新テーマ "New Materials"の第一弾の記事として、テーマの概要と強調したい点についてお伝えいたします!
素材・化学領域の新テーマ立ち上げ
Plug and Play Japanは2021年6月に新テーマである“New Materials”のアクセラレータープログラムを開始した。本テーマでは素材・化学領域のDeep Tech(*1)を用いてグローバルな社会課題解決を企図する8つのサブテーマを掲げている:
・カーボンニュートラル(脱炭素)
・サステナブル / サーキュラーエコノミー
・バイオプラスチック / 脱プラスチック
・電池・半導体技術
・メタマテリアル
・合成生物学
・マテリアルズ・インフォマティクス
・ラボオートメーション
9月までの3ヶ月間のプログラムを通じて、大企業や投資家等のパートナーと共に上記テーマに関連する9つのスタートアップの成長を支援していく。(参考情報:本テーマの関連スタートアップによるPitch Eventを開催予定
https://japan.plugandplaytechcenter.com/events/newmaterials_su/)
Why New Materials?
素材・化学系スタートアップが取り扱う技術は研究開発の蓄積から成り立つDeep Tech領域に位置づけられ、社会課題に対するインパクトが大きい一方で、純粋なソフトウェア系スタートアップに比して一般的に事業化難度が高いと言われている。その要因の一つとして、量産フェーズのハードル(死の谷)が高いことが挙げられる。研究開発フェーズでの技術確立のハードルもさることながら、量産におけるスケーラビリティ・コスト・品質等を事業化レベルにまで引き上げることは、リソースに乏しいスタートアップにとって容易ではない。またソフトウェア系スタートアップと比較した場合、創業から収益化までの時間軸が長期に渡ることが多く、安定的な資金調達も課題の一つだ。これらの障壁を超えるための鍵となるのがスタートアップと大企業の連携である。
日本の製造業はGDPの内約2割を構成する基幹産業であり、その中でも素材産業(*2)は輸送用機械産業を凌ぐ第1位の付加価値額を占めている。加えてグローバルトップシェアの製品を数多く有しており、世界的に見ても日本の大企業が強いプレゼンスを発揮している領域である。本領域の大企業が培ってきたR&Dから製造、販売までのバリューチェーン全域に渡る有形無形のアセットは、もはや素材・化学系スタートアップの成長に欠かせない「社会インフラ」とも呼べる存在だ。そのため国内スタートアップは勿論のこと、海外のスタートアップにとっても有望企業との連携は魅力的なオプションであり、Plug and Play Japanにも多くの問い合わせが寄せられている。
一方の大企業側の視点から見た場合においても、スタートアップとのオープンイノベーションの重要性が高まっていることは既に広く認知されている。ゲームチェンジを引き起こす存在が業界の既存プレイヤーではなく、他業界からの新規参入プレイヤーやスタートアップのような新興企業にとって代わりつつある昨今においては、社外のアイディアや技術に目を向けて社内に取り込む / 共創することは必然の流れと言える。これは素材・化学業界のような研究開発型産業においても例外ではなく、実際に大学発の先端技術やAI・デジタル技術の活用可能性に注目が集まっている。
このように素材・化学領域のスタートアップと大企業はあらゆる面で相補的な関係にあり、イノベーション創出の両輪であると言える。Plug and Play JapanのNew Materialsプログラムは本テーマを代表する大企業や大学を含む研究機関が数多く集積する京都をメイン拠点とし、国内外のスタートアップとの共創を支援するために設立された。
Plug and Play のプラットフォームがどう貢献できるか?
Plug and Playは自らを“The ultimate Innovation Platform”と位置付け、スタートアップ・大企業・研究機関・投資家等、イノベーションに関わるあらゆるプレイヤーを繋げる場を提供している。ここではNew Materialsのプログラムがイノベーションの両輪であるスタートアップ・大企業に対してどのような価値提供を行っているかを紹介する。
スタートアップに対する提供価値
大きくは「① シリアルアントレプレナー的知見の実装」と「② 親和性の高い大企業とのマッチメイク」の2つが挙げられる。1点目について、起業家は2周目・3周目のシリアルアントレプレナー(連続起業家)であるほど起業成功率が高まると言われている。様々な要因の重ね合わせの結果ではあるが、一つの主要因として「スタートアップが陥りがちなワナ」を回避できることが挙げられる。プログラムを通して資金調達・法務・チームビルディング等多岐に亘る経営領域における知見を提供することで、スタートアップが本来の価値を発現できるようサポートしている。それに加えて、プラットフォームを通じて起業家OBやベンチャーキャピタリストによるメンタリング機会も提供可能である。2点目の提供価値としては、前段で述べた通り素材・化学領域のスタートアップが事業化を成し遂げるためには大企業との連携が極めて重要であるため、プラットフォームを用いて親和性の高い企業同士をマッチングの上、Plug and Play Japanが中立的な立場から議論 / 交渉をサポートすることで、3ヶ月という限られたプログラム期間における協業可能性の検討を可能にしている。
大企業に対する提供価値
オープンイノベーションに際しては、有望スタートアップの目利きやPoC推進等の「社外向け」の取り組みも重要である一方、企業パートナー自身のイノベーション戦略の言語化や社内連携体制の構築等の「社内向け」の取り組みも重要である。外部をいかに巻き込むかのみを成功要因として捉えがちだが、大企業であるが故に堅牢な組織の壁に阻まれて取り組みが頓挫することも往々にして有り得る。Plug and Play Japanはプログラムを通じたスタートアップ連携を推進しつつ、企業固有のイノベーション課題を可視化・重み付けした上で解決に向けた伴走支援を提供している。例えばスタートアップと共創した新規事業の受け皿となり得る事業部を巻き込んだワークショップを開催することで、企業内連携の推進を支援している。
最後に:テーマ軸を超えた共創可能性について
Plug and Playのプラットフォームは、IoT, Fintech, Insuretech, Mobility, Brand & Retail, Health, Smart Cities, Energy, そしてこのNew Materialsという広範なテーマ軸を有しており、そこで繋がる様々なステークホルダーが共創するN対Nのコンソーシアムモデルで成り立っている。例えばNew Materialsプログラムを通じて出会ったスタートアップ×企業パートナーの共創により生まれた技術 / 製品が別テーマであるMobilityやBrand & Retailの企業パートナーに採用される可能性も想定される。近年、自動車メーカーの街づくり事業参入や家電メーカーの自動車事業参入に代表されるようにもはや業界間の境界は溶け始めており、領域横断的な事業展開や企業連携が益々加速するものと思われる。Plug and Playのプラットフォームが国家の壁・言葉の壁・業界の壁・企業の壁・組織の壁等、イノベーションの阻害するあらゆる障壁を超えるための触媒となることを願っている。
(注釈)
*1 Deep Tech:重大な社会課題解決に資する、研究開発の蓄積に基づく革新的技術
*2 素材産業:化学産業と金属製品産業の合計
ご参考:Plug and Play Japanについて
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