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大学生のときに地方の劇団員になった。若者がバイトをしながら成り上がることを目指したり創作の道を極めんとするのではなく、働きながら芝居を打つことそのものを喜びとする劇団である。もちろん地方芸術のあり方を探るという課題はあるけれども、多くの場合は自然とみんなに人気のあるエンタメを目指すことが多くなる。おかげでエンタメの素晴らしさ(なんと多くの人の心をつかむことができるんだろうっていうこと!)を知ることもできたわけだけど、能力もないくせにどこか浮世だった感じを求めているせいか、途中でやめてやろうと何度も思った。けれど寂しさが勝って今も続けている。

今年の春には芝居打って公演する予定もあったが件の情勢により延期となった。いまだに公演の目処は立っていない。これほど時間が経ってしまうと、さすがにオンライン公演などを検討してもいいと思うのだけど、通勤中の電車など存在しない車社会では感染者もそもそも少ない上、クラスター認定をされては劇団ごと社会の空気に潰されかねない。なので劇団員ですら集まることを躊躇している。

年明けから自粛の空気が流れて個人的な旅行や観劇、友人との再会などの予定がふっとんでしまったのもあって、暇になった。暇になってとても安心した。何かをし続けなくてはいけないという重力を得体の知れない何かから受けていたのである。誰かが仮に何かをしていたとしても寂しさは感じない。安寧だけが私を包み込む。Twitterはログアウトしっぱなしになっている。

オンライン公演などが積極的な演劇団体もたくさんある。とても素敵なことだと思う。ただ自分の場合、休むきっかけを探していたのだとも思う。これ幸いとせっせと生活している。部屋は綺麗になり、オムライスを作ったり、先日は白玉を茹でた。それでも演劇を続けたいと思えるのって羨ましいな。何かを作り続けられるようになりたいな。

最近は読書をする心の余裕ができた。先人の文章は美しいし、落ち着く。写真よりも文章の人間である。文章をしたためてみようと思う。本当にささいなことを書き留めるために。

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