香る

車輪の下にて。 わかりやすい文章かけない…

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最近の記事

「優等生」という概念にコンプレックスを抱いたまま大人になった人が書く太宰治のパロディ.1ー3 終

…その少女は悩んでいた。  文芸部に入り作品を作れば、自分の煩悶も昇華できると思っていた。書きたいことはあった。この胸の奥から自分を捻るようなこの苦しみを吐き出してしまいたかった。まず「苦しい」と書いてみた。ペンが止まった。何がそう思わせるのか、何を解決すればこの苦しみから解放されるのか、正直まったく検討がつかなかった。  校内で「悩んでいることがあれば何でも相談してください」というポスターを見かけたことがある。自分の顔が暗いことを心配してくれた先生もいた。しかし、少女はそ

    • 「優等生」という概念にコンプレックスを抱いたまま大人になった人が書く太宰治のパロディ.1ー2

       彼女は小説の、作るのが難しいことに驚いていた。課題の作文のように終わるものだと思っていた。確かに作文の課題は、ドリルや単語帳を一通り修めるに比べて時間がかかるものではあったが。  彼女は真面目であった。せっかく作るのなら形だけは整えて提出しなければと思った。文学というものを大して理解はしていなかったが、下手なものは出せないとは感じていた。筆が進まないながらも国語の知識を総動員させて、なんとか構想を練った。  図書館で小説の書き方という本をパラパラとめくってみた。しかし情景描

      • 「優等生」という概念にコンプレックスを抱いたまま大人になった人が書く太宰治のパロディ.1ー1

        以下、太宰治「猿面冠者」パロディです。 原作知らなくても楽しめるはずです! 少しでも覗いてもらえると幸いです  遊びの誘いも、 三週間後にテストがあれば、勉強をしなければいけないと断ってしまう。  テストが終わってから誘うと、次の小テストの準備をすると言って断る。土日はことさら、課題が終わってからでないといけないと言って聞かない。彼女が私服でいる姿はツチノコと同じ次元で、その姿を図書館以外で見かけたら雨が降ると言われている高校生がいる。  この性質は彼女を青春の遊びから遠

        • 富士が見たかった

          あずさで松本から東京へ上っていくと、甲府が近づくあたりで富士が見える。 富士を見るためにはDの席に座る必要がある。 富士が見たいと思ってDの席を予約した。するとCに人が座っている。平日の昼間である。席の隣が空くことがほとんどである。しかし人がいる。前後の席には一席ずつ予約があるようだ。 Cに座る隣の者はずっとパソコンのキーボードをうるさいくらいに叩き、時に大きなため息をつく。 不快である。 私はただ富士が見たかっただけなのだ。 けれども、富士が見たいと思ってしまったばか

        「優等生」という概念にコンプレックスを抱いたまま大人になった人が書く太宰治のパロディ.1ー3 終

        • 「優等生」という概念にコンプレックスを抱いたまま大人になった人が書く太宰治のパロディ.1ー2

        • 「優等生」という概念にコンプレックスを抱いたまま大人になった人が書く太宰治のパロディ.1ー1

        • 富士が見たかった

          記憶という救い

          ……人を救うものは、記憶だと知人は言った。 …満たされた記憶があればそれを思い出すことで救われる。 その考えは少し前の私のものと似ていた。 満たされた過去が有れば… 大切な過去があれば… つらいことがあっても乗り越えられる。 何度もその記憶から元気をもらえるはずだ。 けれど結果、記憶は私を救わなかった。 記憶が救いなら私は救われてもいいはずだが決して私は救われてはいない。 なぜなら記憶というのはぶら下がって頼るには、あまりに脆弱なものだった。 記憶に頼ると今と過去の

          記憶という救い

          自分の感受性

          インスタを初めて2年ほど月日が経った。 最近は「映えてる」写真を投稿することに取り憑かれた。 かつての同級生のインスタを見つけ、無言で眺め、見本にしていた。 しかし私は彼女らにはなれないし、これは自分の本当に発信していきたいものではないという違和感が残る。 ふとたまに流れてくる、意味もなく空を写したような、そんな投稿がひどく羨ましかった。 「自分の感受性くらい、 自分で守れ、馬鹿者よ」(茨木のり子) 国語の教科書にあって、今も私の心に残る言葉。 当時は、 守っ

          自分の感受性

          就活。 最近の面接官は、唐突な質問をするらしい。 自分ならば何と答えるだろう? Q.もし道でおばあさんがいきなりうずくまったら、あなたはどうしますか…? 「私は最低な人間です。 ですから、すぐにおばあさんに駆け寄って、 大丈夫ですかと声をかけます。」 Q.なぜそれが最低なのですか? 「私は、おばあさんに声をかけようか、いやかけないでおくか、いや…という煩悶を抱えたくはないのです。いざということがあったとき、私は一生の後悔をするでしょう。それが嫌なのです。 それらの

          セカンドパートナー

          妻や夫以外の第二のパートナーのことをセカンドパートナーと言うらしい。 肉体関係がなく、プラトニックな関係が前提、らしい。 男性は女性に肉体の貞節を求める、女性は男性に精神の貞節を求める と、友達が口にしていたのを聞いたことがある。だから女性が犯されてしまった場合、女性がいくら心の底では夫のことを思っていても、男には許せない、ということだった。 逆に女性は肉体関係がなくとも、浮気という精神自体が許せないだろう。 もちろんそうではない男性、女性もいるであろうが、精神の貞節を

          セカンドパートナー

          シュガーバターアーモンド

          シュガーバターアーモンド これを食べている間だけ 少しの夢想 少しの幸せ あなたと会うことも考えていた うまく食べれなくて 粉砂糖がふわりと舞って、 瞳に入ってしまって 目は甘さを感じない けれど そのイメージ 目に粉砂糖 それが甘くて甘くて仕方なかった

          シュガーバターアーモンド

          寒空のセミ

          私のいる地方は最近とても涼しい。 半袖だけでいると寒いくらいだ。 夏なのに涼しくて本当に夏なのかいと思いたくなるが、猛暑日に比べると過ごしやすくて本当に助かっている。 寒いくらいの日でも、夏なのでセミは変わらず元気に鳴いているように聞こえる。 でも、せっかく鳴いているのにこんな寒い日で気の毒だなとも感じる。 セミも本当は茹だるような暑さの中で、 地面から上がる熱気で視界が揺らぐような陽の中で、汗だくの青年がアイスでも食べているような日に鳴きたかったのではないかと思ってしま

          寒空のセミ

          桜と雀、たんぽぽと私

          桜の花をくちばしで折る雀の子 桜に戯れ ぷちりぷちりと、 まるで薔薇を咥えた俳優のように ぷちりぷちりと摘み取っては ぽとぽと落としてしまう 散るにはまだ早い 今が盛りの花たちを ぷちりぷちりと摘んでいく あそこに見えるは幼い私 たんぽぽをぷちりぷちりと手折ってる たくさん摘んで、 手の花束は大きくなるばかり ミツバチが乗ったたんぽぽも 構うことなくぷちりぷちり 怒ったミツバチ 小さな手をぷすっと刺した たんぽぽに囲まれて 泣き出す私、 泣き声を聞いて驚く母親 痛い痛いと泣

          桜と雀、たんぽぽと私

          こっちへおいで、ノスタルジー

          あの日々は眠かったのをよく覚えている。 今、その日々を思い出している私が、ささやかな眠気の中にいるせいであろうか。 電車の中で何度はっと目覚めたことだろう またある時は電車の中で次の駅が間近になっていくアナウンスを聞きながら必死に目を開けようとしていた、立ちあがろうとしていた 私は行きも帰りもこの電車で寝過ごしたことはなかった。 しかし都会の電車は忙しなくて、慣れない私は眠っていなくても電車を乗り過ごしてしまう。 時間感覚がだいぶ違う。 窓の外が見えない地下鉄は

          こっちへおいで、ノスタルジー

          データの海を漂う小瓶

          電波が届きづらいコンピュータを弄んでは 今日も孤独、今日も孤独と、心はつぶやく。 誰とでもつながれるからこそ 理由がないとつながれない。 会いに行ってもいいですか。 話をしてもいいですか。 顔を知ってるあの人も、顔も知らないこの人も。 こうやって、祈るように世界へ発信する投稿は データの海に、ぼちゃんと落ちた。 回収するのも難しいほど 流れ、流れたその投稿は まるで手紙入りの小瓶なのです 小瓶はいつか無人島で寂しさに押しつぶされてる誰かの元へ、たどり着くのだろうか

          データの海を漂う小瓶

          切ない思い出

          これから私が綴るのは、 眠れない夜に そっと思い出した ちょっと切ない思い出。 友達が、先生からサインをもらってくる!と目を輝かせて私に言ってきた。 保育園中の先生のサインを集めるとのことだった。 私はサインをよく知らなかったが、その友達が集めたがるということは、とても良いものに違いないと思った。 私もサイン集めに同行させてもらった。 友達は自分の持つ白い紙に、無造作に、どこでも、どんな向きでも好きなように先生にサインを書いてもらっていた。 私は紙に線を引き

          切ない思い出

          ごめんね 春はどうしてか、 心がスースーするの よるべない思い。 元気に振る舞えなくてごめんね 汗いっぱいかいた背中が冷えて寒くなるような 空も花も鳥の声も 世界のすべての色彩、音が、 せつなくて悲しくて、 春のうららかな日差しが気持ちいいのに残酷で その日差しにまだ慣れないうちに、 もう夏ですね、なんて。 待って、待って、待って。 私、まだ何もできてない。 何も成せてない。 帰れない。 心の落ち着くところへ、まだ帰れない。 ごめんね、しばら

          夢物語

          夢を書いてみようか 下手くそな恋愛小説でも書いてみようか 私は夢をみた 場所はどこかわからない。 私はそれでも疑問を抱くことなくそこに座っている 床に座っていた。体育座りだった するとあなたが近づいてきた 私は この人は私に告白するのだと思った その人は私の前に近寄ってきて立ち止まって 好きな人、いるの と訊いた。 私はその時、私がいないと答えて、その人が私に告白するのだろうと思った。 それなのに、私の口は思わぬことを言った。 けれどそれが本心だっ

          夢物語