あの人の一人焼肉
世界が捲し立ててくる。
あの人は早口で話すことが、賢い人の証だと思っている。
私が私の中にその言葉を入れる時間すら与えられない。
あの人の言葉は行き場を失い、私の目の前を浮遊している。
私はただニヤけて、ただ頷き、ただ搾取されていく。
今日もたくさん搾取されたなあ。
時間。
言葉。
喜怒哀楽。
睡眠。
食事。
空気。
水。
衣食住。
私。
明日は何を搾取するんだろうなあ。
声。
色。
味。
匂い。
痛み。
明日。
捲し立てて、捲し立てて。
巻き込んで、巻き込んで。
奪って、奪って。
私は死ぬことが上手になった。
あの人は私を殺すのが上手になった。
あの人はギトギトした油を唇につけながら、ビールをすすり、唾を飛ばして得意げに言う。
「肉は骨の周りが1番美味しいんだよ」
タンを食べられた私は言葉にできず苦しむハツで思う。
「もう、それ、骨だよ。」
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