走ることが夢だった4 (フォーミュラ編)
山梨に帰った次の日、学校へ登校。
担任に報告する。
レースに詳しい先生ではないので、状況を説明しても顔をしかめるだけで通じない。
数日後、貧乏人呼ばわりされたレース担当の先生に相談した。
筑波のスクールに行ったのか?と笑われる。
FJ1600のレースでもチャンピオンクラスは、バブル時は年間2000万使ってたんだぞと言われた。
それから同じ専門学校の卒業生でレーサーになった人の話を聞かされる。
その人は中古のマシンを購入してレースに参加していたという。
話の最後に、「レースの事を中心に考える気持ちは必要かもしれないな」と言われた。
話をして勉強にはなったが、つくづく嫌味なやつだと思った。
カート時代は、月に何度も練習できたがフォーミュラはそうはいかないようだ。
行動では飛ばさないと決めていたが、1人で峠に行くようになって行った。
愛車はAE92レビンだった。
FFだが、足回りはAE86より良いのではと思い購入した。
峠では、すぐにタックインからのFドリが出来るようになった。
1年の夏休みに、東京の多摩テックでプロドライバー参加のカート大会があることを雑誌で知った。
地元の幼馴染を誘い参加する事にした。
その友達は、映画監督になるのが夢で演劇の勉強をしていた。
夏休みになりカート大会当日、多摩テックに向かう。
参加した理由は、トヨタのワークスドライバーの外国人選手が参加するから勝負したかった。
レースは午後から。どうやらレンタル用カートでレースするらしい。
午前中は普通にレンタルカートの営業をしていたので、下見がてら乗る事にした。
乗ってみると、レーシングカートよりフレームのしなりがなく、安全性のため補強されているのかやたら硬いし、車体が重い。
だが乗りこなすのに時間はかからなかった。
高橋国光選手のコースレコードと看板にタイムが書いてあったが、リザルトを見ると2周目には抜いていた。
友達に「高橋国光選手はカート出身じゃないから、カートやってたやつはみんな抜けるよ」と言い放ったのを覚えている。
午後になり大会が始まる。
観客含め数百人集まっている。
3人1組で1時間の耐久レース。
幼馴染ともう1人は中学生くらいの男の子になった。
私のターゲットは、プロドライバーのチーム一択。
トヨタの外国人ドライバーは、十勝24時間に参加するため来られなくなっとという。
この業界のあるあるだ。最初からわかっていたんだろう。
代わりに日産系の兄弟でドライバーの弟の方と、次の年からF1に行くと噂のホンダ系のドライバーが来ていた。
プロドライバーのレーシングカートによるデモ走行があった。
ホンダ系のドライバーは、コーナリング時内側のタイヤを浮かせている。
わざと浮かせコントロールしているのだろう。さすがだ。
日産系のドライバーは、本気で走っているようだが、カートの走りじゃない。
いよいよプロドライバーと走れる。
2人のカート未経験者と走るので、私が最初に走り、レースをリードし目立つ作戦にした。
レーススタート。
1周目からトップに立った。
数周するとカーボンが飛んだのか、高回転が回るようになってきた。
どんどん周回遅れにしていく。
1人20分の走行だが、その間に30台くらい周回遅れにした。
全部で7.8台の参加だから、プロドライバーのチームも周回遅れにしたかも知れない。
時間になり交代。
順位を見るとトップのはずの私のチームのタイムがバグっていて最下位になっている。
ほんとにこの業界あるあるである。
何から何まで嘘ばっか。その後、私の幼馴染と男の子はまともに走れずにリタイア。
レースも終わりプロドライバーのトークショーがあった。
弟のドライバーと私は目が合った。
わざとらしく首を横にプイッと振られた。
「勝ったな!」と私は思った。
プロでもこの程度かと。
私はプロドライバーと走りまず思ったのは、「ハルナすげぇ」ハルナとは、私が出身の群馬のカートチームだ。
先輩に教わった通りの走りが、プロドライバーに通用した。
私の腕が云々より、率直にハルナすげぇが私の思いだった。
この大会に出て、プロドライバーは別次元にいるんじゃないとわかったのは収穫だった。
幼馴染とも久々に再開して話が出来たので良かった。
運送屋のバイトがあるので夏休みでも山梨の寮に戻った。
働かない事には何も始まらない。
トレーニングにも兼ねているので手は抜けない。
そう言えば大会前日、幼馴染と公園で懸垂がどちらの方ができるか競ったが、私は10回以上軽々できて私の勝ちだった。記録は狙わなかったので、何回までできたかはわからない。
私は小さい頃から運動音痴だったので幼馴染は驚いていた。
何より自分でも驚いていた。
これからどうするか?
レースの予定は無くなった。
とりあえずレーシングスクールの筑波の活動に紛れ込まなくては。
自分の努力ではどうにもならないという思いが込み上げてくるばかりだった。
レースの世界は、金、コネ、実力とはよく言ったもんだ。
5 (フォーミュラ編)へ続く