「熊本城マラソン」の様子を見てきただけの話と、興味が持てない仕事で挫折した話⑥(終)
※これまでの話↓
ラストスパートはキツい。
近所一帯の一周が約500mのコースを3kmジョギングしている。六周を走ることになるが、六周目だけが異様にキツい。五週目までは「もうちょっといけそう」とか思うんだけど、六周目の一歩目からもうキツい。でも、おそらくこれが五周だとしても四週目でキツくなる。なぜ「あともうちょっと・・・」が一番キツいんだろう。もしかしたら、自分の場合は「あともうちょっと・・・」と思っている時点で肉体は先にゴールしているのかもしれない。心はまだ走りたいと思っているのに、肉体だけは気分的に既にゴールしているので休もう休もうとしているのかもしれない。本当に運動神経が良かったり、メンタルも鍛えられてる人は心とカラダが時差なくバッチリ同期できているんだと思う。文字通りの「一心同体」。そういう人たちのシンクロ度が5G並みだとしたら、自分は3Gでも危ういかもしれない。でも、それを今後必要とするシーンが自分の人生にはなさそうなので、しばらくはバラバラでやっていきます。
フィニッシュ
アーケードのランナーにも飽きてきて、ワンセグで中継を観ながらウロウロしているとトップの設楽選手がフィニッシュまで残り数kmという情報が入ってきた。鶴屋百貨店に移動する。いつもは鶴屋の前に路線バスが軒を連ねる一車線が、まるごとィニッシュへ飛び込んでくる選手を迎えるエリアになっている。フィニッシュ地点でもカメラ位置の抽選があったらしいけど、知らない間に終わっていた。待っている間もスマホのワンセグでずっと中継を観ていたら、スチールのカメラマンの人が「今どの辺ですか?」と覗き込んできたので「代継橋過ぎましたね」と答える。まだ画面を覗き込んでくる。熊本の地理とかランナーの情報とか全然分からないので、雑談レベルでもこれ以上色々聞かれた嫌だなって思っていたら「速ぇ~」と独り言みたいな感想を放ったので、「自転車と同じくらいのスピードですもんね」とタクシー運転手との会話レベルの返しをする。すると、「そうだよなぁ。速ぇよなぁ」とニヤニヤしながら自分から離れてった。「自転車と同じくらいのスピード」という例えは、当時陸上関係の仕事をしていた時に手練れのスタッフ同士の会話で耳にしたもの。言った瞬間は、どこか自分の言葉ではないなという意識があったけど、そんな記憶の片隅の隅の隅の掃除もできないような場所にあるくらい角っ子にある一瞬の会話の引用だったことに少し自分でも驚いた。
設楽選手が鶴屋の前の交差点を曲がり、だんだんこちらに近づいてくる。飛び込むようにフィニッシュしたが沢山のスタッフに抱えられ、あっという間にどこかに行ってしまった。フィニッシュした後も自転車並みのスピードだった。
上通りのぴぷれす広場で設楽選手の囲み取材があるというので向かう。すぐに始まるとのことだったが、なかなか設楽選手が出てこない。ようやく出てきて冠をかぶらせれたり、質疑応答が始まったが、なんとなくピリついていたし、現場もそれに応じてピリつかせていたように思う。超素人意見だけど、小っちゃなマラソン大会で1位獲ったぐらいじゃなんとも思わないんだろうか。アナウンサーからの質問に答えている内容もサッパリしていた。ただ、東京マラソンについて聞かれると「日本中が興奮する走りがしたい」と今までの発言とは趣が違う言葉が出てて、なんとなく表情がリラックスしているようにも感じた。オリンピックに行ける最後の一人が決まるのだから、本心というか人間らしさが少し見えてホッとした。設楽選手の様子を昨夜の記者会見から現場でノーカットで目撃しているので、もしかしたら結構ナイーブな人なのかなって少し親近感が湧いた。
帰路
設楽選手が囲み取材の場を去って、現場の緊張感も解けると同時に自分にもドッと疲れが来た。時計を見ると正午を過ぎていた。気づけば朝7時頃からずっと立ちっぱなしだった。イベントのスケジュール的には近くのホテルで改めて表彰式が行われたり、後続の市民ランナーがぞろぞろとゴールする景色も見ることができる。にもかかわらず、路面電車の電停に足が向かう。最後の閉会式も見ていくつもりだったけど、謎の満足感に支配されてしまっていた。何もしてないのに。持ち帰ったことと言えば、レインコートルックのくまモンがカワイかったので誰かに話そうと思ったことぐらい。疲れていてお持ち帰り袋のキャパがそれぐらいだった。
お腹が空いていたので電車内で母親にLINEで昼食の様子をうかがった。何時に帰ってくるかもロクに連絡せずに出かけたので、お伺いを立てなければならないあたりが実家っぽいなって思った。一人暮らしにはまずない手順。路面電車一本で実家に帰り着いたのは13時前。家に帰ったら、ついてたテレビでまだ市民ランナーが走っていた。家族で昼食を取り始めてもその中継のチャンネルがずっとついていて、特に見たくないわけではないけど、なんとなく他のチャンネルの方が見たいなって気分だった。そういうところがこの仕事に向いてないのだと思う。
おわりに
見に行く目的を失ったのに向かった熊本城マラソンに意味を持たせたいために、この文章を書き始めた。見に行った当時の自分は、家族で昼食をとっている当時の自分は「何も収穫がなかった」と思っていたので。
本当は2記事ぐらいで終わるつもりが、書いていくうちにマラソン大会当時のことも、それに付随してこの機会でないと呼び起こせなかったような記憶をも引き出したことがあってこんなに長編になってしまった。でもこれで陸上と関わるのはいったん終わり。決して得意ではない種類の仕事だったけど、最後を地元で結ぶことができて良かったと思う。あー、気軽にジョギングができる状況に早くならないかな。