タセキング
タセキングというのは、我が家でしか通用しない、造語である。「他責」と「キング」を合わせている。つまり、何でも他責にする人のことである。
私はよく、キッチンやトイレの電気を消し忘れる。あまりしつこく追求されると、心にもなく、
私ではない。
そういう言葉を発して無理やり逃げおおせようとする。すると、家内と次女に、
タセキング〜!
と言われる、という寸法である。
家内とは、ちょっとした行き違いがよくある。ついこのあいだも、こんなことがあった。ある手続きで、実印を必ず持っていかねばならなかった。朝から忘れないようにと、家内と私で実印、実印と、2人で言い合っていた。そして、もう、家を出ようという時である。家内が、
実印、持った?
と聞いてきたので、
持っていないからね。頼むね。
と、確かに応えた。
そして家を出た瞬間、家内が言った。
実印は、持った?
私は、言った。
いやいや。持っていないから、頼むねって、言ったよね。
家内は、
いやいや。頼むねとは、聞いていない。
と言う。
いやいや。
と、私が言い終わるか終わらないかの間に、
はい、タセキング〜っ!
これが、我が家の愉快なタセキングタイムの、やりとりなのである。
私は、思った。小学校のはじめ頃、忘れ物が多くて、「忘れ物の王様」と呼ばれていた。そして今は、「タセキング」である。いつまで経っても、悪い方の王様だ。
成長しないな。私は。
ひとり、心の中で小声で呟いた。悪いのは、確かに、私なのだ。