見出し画像

オートチャージ

私も交通系ICカードを持っている。クレジットカードと定期が一体になったものなのだが、何でもそれで決済をし、しかも毎日自動改札に定期入れから出してタッチする。

少し硬めの定期入れに入れていて、定期入れには他のキャッシュカードも入っている。スキミングカードを挟んではいても、自動改札で読み込まないこともままあったため、定期入れからその都度出してタッチをしていた。

恐らくそれが直接的な原因だったのだろう。いつの間にかICチップは読めるが、磁気リーダー部分が読めなくなってしまっていた。

6月の中頃、一緒に買い物に出た時、家内から突然に指令が出た。

あなたのポイント、いくら残っているか、そのリーダーで確認してみて。

えっ?いきなり抜き打ちですか。心の中で呟く。

だって、いつもポイントを捨ててしまうでしょう。あなたは。

このクレジットカードは、定期券を購入する。かなりの金額になるのでポイントが結構つくのだ。そしてそのポイントは、使われないまま消え失せてしまうという失態を、私は毎年のように繰り返していた。

家内は、クーポンやポイントが、特別なこだわりポイントなのである。

どうせ読めないんだよね。知っているんだよなぁと、呑気なことを心の中で鼻歌まじりに言いながら、真面目な顔をしてリーダーに通してみる。リーダーの画面は、冷たく、

カードを認識しません。

というメッセージを何度入れても返してくる。

かくして駅の窓口で問い合わせ先を確認し、クレジットカードのセンターに電話をし、2週間後に届いた新たなクレジットカードを駅に持ち込んで古いクレジットカードからのオートチャージの切り替え手続きをすることになった。

思えば、駅の窓口に着いて駅員に声をかけた時、奥で振り返った駅員の対応がいつにも増して妙に笑顔で元気だったのだ。訪れた事情を話すとその親切な駅員は、

全て、券売機にてお手続きが完了できます。

と答えた。そして私を導いて券売機まで同行する。歩みも半身になり、私の方に常に顔を向けながら話し、目を離さない。それでいて慎重に券売機まで手を前に出して誘導しつつ歩む。

お客様のカードをお願いいたします。

白い手袋の駅員は差し出した右手に左手を添えて私のクレジットカードを丁重に受け取る。説明も、非常に丁寧だ。気持ち良い受け答え。実に対応の素晴らしい駅員に当たったものだ。

そう思った私の横を、到着した通勤電車から一斉に降りて来た乗降客が次々と自動改札を出ていく。そしてなぜか私と駅員の方をみんなが振り返りながら家路に向かおうとしている。

自動改札の前は、空いている。何か、あるのかな.....

そう思っているあいだに、手続きは滞りなく完了した。

私は、特上の対応をしてくれた駅員に賛辞の意味も込めて言った。

何でも改札機でこんなに簡単に手続きできるんですね。素晴らしい。

はい。駅まで出向いて頂いて、大変お手間をおかけいたしました。申し訳ありませんでした。ありがとうございました。

そう頭を下げる駅員に、ありがとうと礼を言って振り返った私は、男女7人の、メモ帳に何かを書き込んでいる若々しい駅員たちに囲まれていた。

なんだ?なんだ?思わず声に出しそうになった。

事情をにわかには理解できなかったが、ちょっと横に逸れながら抜け出し、私は歩き出した。

その時だった。対応した駅員と、男女7人の初々しい駅員が、私に向かって腰を90度に曲げて完全シンクロで礼をしながら大きな声を出した。

ありがとうございました!!

改札を出る人の波は、私に奇異の目を向けていた。いくら新人教育でも、そこまでやらなくていいんだよなぁ。心の中で頭を掻きつつ呟きながら、何だか恥ずかしくなって、足早に駅を後にした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?