テレビジョン
テレビの調子が、かなり前から、段階的に、悪くなってきているのである。
そもそも、東日本大震災の時に、揺れで倒れて、画面に傷が入った。フローリングの床に、バタンと倒れたものだから、かなりの衝撃があったはずだ。
当時、ようやくつながった電話の向こうの長女から聞いて、もう、壊れたかも知れないと覚悟は、していたのだ。
あの震災の日、深夜まで都心の事務所で足止めをくらい、夜半過ぎに電車が一時的に復旧し、安全確認の停車を道中で頻繁に繰り返しながら、遅すぎる各駅停車となった普段使いの路線で、7時間後にようやく最寄りの駅に辿り着いた。疲れ果てて帰宅し、ぐちゃぐちゃに散らかった家の中で、なんとかテレビを据える場所だけ確保して、電源を入れると、何とか、画面が浮き上がってきた。
そういう歴史を経てきているテレビだから、そもそと、邪険には、できないのである。
もう、14年間以上、使っている。本当は、そろそろ、引退だ。
2年以上前から、テレビ内蔵のチューナーが、壊れて受信できなくなっている。受像は、Blu-rayレコーダーに任せ、入力切り替えで画像を出している。
最初この、入力切り替えが面倒だと、家内からも、子供たちからも、かなりの文句が出た。だが、修理もせず、その手法で押し切った。
そして続いて、半年前に、スイッチが、押せなくなり、リモコンでしか、スイッチのONとOFFが、出来なくなった。
そしてこの春、3月くらいから、画面の色が、ときどき、赤くなる。
つい先日のことだ。テレフォンショッピングのサイトで、お得なテレビが安値でキャンペーン販売されていた。
家内と相談し、それを購入することで手続きをしていた。と言うか、購入をしたのだ。
ところが、私の、その購入手続きに対して、思わぬところから、クレームが入った。
家内が、テレビ購入の報告を、家族LINEでして、それぞれの子供たちと会話をしていると、長女が、言い出したのである。
我が家は、何年も、同じブランドのテレビをリビングに据えてきた。テレビと言えば、家庭の、顔である。だからこそ、ブランドのイメージは、大変重要であり、今さら、安いからと言って、違うブランドのテレビをリビングに据えられるのは、納得がいかないと言う。
そして、家内が、それに、呼応してしまった。
ねえ、コジくん、キャンセルは、出来ないものだろうか。
心の中の、リトルkojuroが、呟いた。
出たぞ。インポッシブル系の、ミッションだ。
そして、あろうことか、テレビ据え付けの日程に、長女と家内と3人のランチのスケジュールが、入ってきた。
何でも、長女から、重要な話があるのだという。
家内は、
どうせ、設置日の日程変更をするんだから、キャンセルを打診してみたらいいじゃん。
と、まるで他人事のように、キャンセルを強要してくる。
逡巡する私を見て、家内が、トドメをさしてきた。
まだ使えるのに、お役御免というのは、そもそも、我が家の流儀に反する行為ではないでしょうか。
心の中の、リトルkojuroが、目をつぶりながら、小さな声で、囁いた。
じょ、女王陛下(注1)に、1票。
リトルkojuro、またもや、お前もか。
翌朝、私は、起床と同時に、そのテレホンショッピングのコールセンターに、電話をかけた。
いくつか、確認したい事項もあり、電話にしたわけだが、大した時間もかからず、滞りなくキャンセルは、実行された。
今、我が家のテレビは、瀕死の状態である。ここかしこに、不具合を抱えている。
だが、もう、決めたのである。
なだめても、叩いても、全く、画面が消え失せてブラックアウトするまで、私は、このテレビを、使い続ける。
その、誇り高きテレビの名は、「たかお(注2)」という。
家内は、インポッシブル系のミッションがコンプリートしたので、しばらく、上機嫌だった。
我が家は、家内が上機嫌だと、明るく平和なのである。
だから、
これで、いいのだ。
(注1)女王陛下とは、家内のことである。私に、ときどき、ミッションを与える、指揮命令系統の最上位者なので、ときに、家内のことを、そう呼ぶ。
(注2)我が家のものの中で、普段使いの、重要なものには、たいてい、名前がついている。私が、ものに名前をつける癖があるのだ。なぜ「たかお」かというと、ハイビジョン切り替えの少し手前で購入した、ハイビジョンタイプのテレビなのだ。「ハイ」では、さまにならない。そして私は、和風の名前が好きなので、日本語で、「たかお」と、相成った。