一夜城
5月15日の土曜日は、長女の要望で、あるレストランに、ランチを食べにいくことになった。
そこは、小田原ではちょっとした観光スポットになっていて、駐車場は、土日は、いつも、いっぱいである。
事前に家内が3人分の予約をとってくれていて、午前中は、Y子ちゃんの卒業記念写真を撮影する予定が急遽入ったものの、なんとか予定の時間に5分遅れで、現地に到着することができたのである。
食事は、見栄えもよかったが、味も、良かった。何より、家内と長女との、休日のひと時を過ごせたことが、私にとっては、何よりの心の癒しとなった。
だが、食事がもうそろそろ終わろうかというときに、衝撃的な、長女の告白を聞くことになった。
もう、今の職場、やめようかと思う。
これには、心の中の、リトルkojuroも、言葉を失った。
.....。
家内の様子を見ていると、うすうすは、聞いたいたような感じだ。
しばらく、長女が、ぽつり、ぽつりと、話し始めた。
それを、じっくり、時間をかけて、丁寧に、聞いた。
そして、心の中の、リトルkojuroが、ゆっくりと、私を諭すように呟いた。
もう、がんばれなんていう言葉は、言わない方がいいようだな。
長女は、休みも連続でとれない。シフトも早朝や深夜がある職場で働いている。
予め、そういう職場であることは、知った上で就職した。だが、1年間働いて、将来像が描けないのだと、告白した。
食事が終わり、レストランを出て、3人でファームをゆっくりと歩きながら、私が言った。
なかば、本気で、だ。
ゆっくりと働ける職場を、俺は、知っている。
教えてあげようか。
そう言って、私は、義母の住む田舎の役場の話をした。
家内も、電話で会話したときのことを、長女に話してくれた。
森づくり課の担当者は、丁寧で、そして、職場の笑い声が、印象的だった、と。
世の中の仕事の中で、楽で楽しいばかりの仕事など、存在するはずもないが、少なくとも、そこには、笑顔があった、という話をした。
その話をしたとき、長女が、少しだけ、笑った。
5月の中旬から始まった、朝の連続テレビ小説も、同じような雰囲気を、私は、感じた。
長女は、17時から出勤で、朝までのシフトだという。明日は休みだが、ひょっとしたら呼び出しがあるかもしれないという。その後は、いつ休みになるかわからないそうだ。
ひとは、生きるために仕事をする。だが、仕事をするために生きているのではない。
当たり前の話だが。
長女とは、駐車場で、別れを告げた。
長女は自分の車、ミシシ(注1)で、そのまま出勤する。
長女が運転席の窓をあけたとき、私は、声をかけた。
いつでも、帰って来いよ。
待っているから。
人生、何があっても、何とかなる。
私に言えるのは、ここまでだった。
長女の人生は、長女が決める。
いまの職場は、長女の、就活志望順位では、かなり高い職場ではあった。だが、1年働いて、そこは、長女は長女なりの思いが、あるのだろう。
家内が、小志朗(注2)のエンジンをかけた。
タイヤは、いつもよりも重く、きしんで出発した。
家内が黙っていたので、私が、かわりに言った。
明日は明日の風が吹く。
まあ、なんとかなるさ。
きっと。
暮れかけた雲がちな空には、飛行機雲がかかっていて、うっすらと、夕焼けがかかろうとしていた。
(注1)長女の車には、ミシシという名前がついている。なぜミシシなのかは、いずれ、記事にすることも、あるだろうと思う。
(注2)我が家の車には、小志朗=こじろう、という名前がついている。