失念

我が家の新しい車には名前がある。小志朗(こじろう)という。小志朗とのカーライフが始まってから、家内と始めているのが、ゾロ目確保(目撃)である。2桁と3桁のゾロ目は、すっかり失念していたので、とりあえず1111㎞からは、必ず目撃しようということになった。

夏休みに入る前に、その日は訪れた。休みの日だったので、これなら二人で目撃できる。そして出発の前に、必ず見ようと固く誓い合い、出発した。ところが、何でも忘れてしまう失念夫婦のこと。様々買い物や所用拠点を巡り巡って帰宅時の給油の時に1200㎞を超えていて、2人ともガックリしたのが、何週間か前の土曜日だった。

先々週の日曜日のこと。外出時に確認すると、2206㎞だった。そして、2人で、今日こそは、と、改めて誓い合った。

17時5分、出発します。誤差無し！

2人で誤差確認を唱和し、出発。そしてスーパーに到着時にはもう、2219㎞だった。帰りは、絶対に忘れないようにとまたまた誓い合い、ショッピングに勤しむ。

さあ、帰宅。2人でまた、

19時7分、帰宅します。誤差無し！

と、唱和して小志朗に乗り込む。もう、目標の距離まで3㎞しかない。あとは、タイミングの問題だけだ。小志朗は、軽快に歩を進めていく。しばらくして、私が確認すると、なんと、2221㎞だった。

あっ！

いつもは控えめに言葉を飲み込むのに、私としたことが、発声してしまった。

あのねぇ、人に運転してもらっているときには、声を出しちゃいけないんだよ！ビックリするじゃない！

と、大きな声で叱られる。

はいっ。

小声で返事をする。

でも、いよいよだ。いよいよ。心の中で、自分に言い聞かせる。

そして、ほどなく、ついに、その時が巡ってきた。

カチッ。2221㎞。

(本当は、カチッ。なんて音は、出ていません)

私と家内は、目見合わせた。道は、広い。家内は、左折のウィンカーを出し、ゆっくりと左に寄せる。そして、ハザードを出して停車。

私が、スマホで写真を撮る。そして、即座に家族LINEで配信。

そして、2人で仰々しく唱和する。

19時17分、2222㎞、確保。誤差無し！

よし。今度は、2人とも、失念しなかった。良かった。あたりは、真っ暗。夏の終わりの夜空は、奇麗な星空だった。