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人生はクソ?ーワンルームエンジェル感想

こんにちは。n_ko_sukeです。今回、嵐を巻き起こしたワンルームエンジェルを読みました。こんなに心に突き刺さる物語は久しぶりに読み、気付いたら感想を綴っていました。決してハッピーエンドではないのに読了後に充足感でいっぱいになりました。心が疲れている方、一度手に取ってそのページをめくってみませんか?

今回の作品は言葉だけでなく、絵から伝わってくるものがあったので絵の良さを伝えられるようなあらすじを自分なりに詩のように書いてみました。あらすじなのに内容がわかりづらいので本物のあらすじは以下のページから

あらすじ

ワルだった男がワンルームで死んだように生きている。金も仕事も友人も、無いと断言できるような生活。人生、クソ。

ある日、喧嘩をして刺され、天使を見た気がした。死んだ気がした、それでもよかった。自分の価値を見出せない人生。生きている価値がない。

だが、生きていた。

その天使はあのワンルームにいた。当たり前のように。

天使は記憶が抜け落ち、男が刺されたときからしかない。天使なのに口が悪く、辛辣である。天使が飛べるようになるまで、記憶を取り戻すまで一緒にあの狭いワンルームで過ごすこととなった。
人の心情が羽に現れる。羽は楽しいと生き生きとし、荒ぶる感情で抜ける。天使は辛辣な言葉を投げると同時に男が欲しい言葉を言ってくれる。男と天使はカップ麺を啜りながら思いのほか充実な生活を送っていた。

男と天使が背負っている過去。男はワルの集団にいて金稼ぎをしていた。本物のワル、ヤクザに手を出してしまい、罰を受ける。
その過去を聞いた後、天使は興味が湧いた。男と天使が出会った日のことを検索してみる。すると、わかってしまった。自分の正体が。信じたくなくて、必死に駆け回るが誰も返事をしてくれない。そうか、自分はこの世の者ではないのか。
二人とも背負っている過去が重い。それが足に絡みついて逃れられない。絡みついてくるツルが底なし沼へ招待するかのように。

それでも彼らは季節を感じている。素麺がうまい季節になった。天使の過去、自殺に至るまでのことがわかり、彼らは悲しむ。しかし、もう、そんなことでへこたれる彼らではない。天使は辛い目にあった分、今は楽しむと決め、二人でどこまでも出かけていく。

人肌恋しい季節になった。だが寂しさは感じない。これからなんでもできそうな気がする。二人一緒なら、どこでも楽しくやっていけそうな気がする。楽しい。心が充実している。これが幸せってやつか。

あれ?どこ?何も見えない、存在を感じない。消えた。
天使は飛んだ。空高く。

心が寒い。日向ぼっこできる晴れた空が凍てつくような吹雪に変わった。どこにもいない。天使なんて初めからいなかったのかもしれない。

男はあの狭いワンルームに一人。今までなかった寂しさも連れて。

何日経っただろう。顔の体毛が伸びきった頃、母がやってきた。

悲しい、寂しい、切ない、そんな簡単な言葉で表せない気持ちが涙に変わって溢れ出る。母が言う、誰か気持ちを共有できるやついるか?会いに行け。なんと頼もしい母。
気持ちを共有できる人、それは天使の父親だった。息子を失った悲しみ、理不尽への憎しみ、自分を責め続ける心。しかし、天使から与えられたものも大きすぎると。そんなことを語る父親が流す涙は美しかった。

そうか、その涙には温かい感情もこもっているのだ。

天使から与えられたものも与えたものもある。自分の価値はあったんだ。人生は思ってるほど悪くないのかもしれない。

三途の川で出会い
この世で愛を知り
あの世で愛を育む
そんな二人の物語。

パァンの音

男が刺され、パァンという音とともに天使が現れました。その音は男だけに聞こえる死への招待を表すものかと思っていましたが、そうではなかったようです。あれは人が地面に叩きつけられた現実の音。天使の過去がわかった時、これも同時にわかったので怖いと思いました。また、店長が「ああでも、こりゃあ、もうだめだ」というシーン。男に対して言った言葉ではなく飛び降り自殺した子のことを言っていたのだと思います。

「飛ぶ」の本当の意味とは

羽があるから飛べるはず、飛ばなければならないという天使の概念から、飛んでみようと心がけるシーンがあります。そのシーンでは怖くて飛ぶことができない。しかし、天使の自殺方法は飛び降り自殺だった。その怖ささえ怖くなくなるほど死にたくなってしまったのか、それとも無意識に飛び降りた時のことを思い出して怖がってしまったのか。真意はわかりませんが、この時飛び降りなくて本当に良かったなあと思うばかりです。この時飛んでいたらまた死ぬ恐怖を味わうことになったのではないかと思います。

孤独は、人がいるから感じるものである

僕のこと見えてるひといませんか?って周りに人がいるのに、誰一人気づかない。自分の存在がないみたいな描き方がすごい。男が帰ってきたときの羽に閉じこもっている姿。このまま天使が消えてしまうんじゃないかと悲壮感が漂っていました。
ずっと一人だと孤独は感じないんだよね。二人の楽しさを知ったあと、一人になるのは初めから一人だった時とは比べ物にならないくらい孤独だ。恋人がいたことがあるシングルと恋人がいたことのないシングル。この孤独には大きな壁があると思う。私は恋人がいたことがないので向こうの孤独はわかりません。ただ、一人旅より、知り合い程度の友人がいる修学旅行の方が孤独を感じました。一人旅も人気のないところを歩いているところは孤独を感じませんが、観光地で人同士が楽しそうにしている場所はここから去りたいと思ってしまいます。

登場人物の少なさ。

登場人物が少ない。めっちゃ少ない。2人以外の心情とかほとんど出てこない。けどこんなにも深みを出している。感情をここまで深掘りできるものなのか。天使と一緒にいた期間は短かったけど、人生のターニングポイントだったのだと思います。男は自分を愛することができるようになる。何かを人に与えることができました。
「人生、クソ」から「人生は悪くない」と意識が変わったのはとても大きなことです。私自身、人生はくそだと思ってしまうタチです。人生悪くないと感じたのも人と関わったり人が作ったものを愛でたりする瞬間でした。そういう一瞬のことを忘れずに自覚し、「人生は悪くない」と意識することが大切だと思っています。

ハッピーエンドではない。

天使は召され、男はこの世に残されてしまうのだから。天使がいるかいないかだけではない。天使によって、男が自分の人生に価値を見出すことができ、天使がいなくても前向きに生きていけるようになる。

内容はとても重くてそのままでは押し潰されそうなんだけど、笑いに重きを置いている部分が多く、重い気分にならずに楽しめます。世界は楽しいと感じてしまう。

母無しではこの作品はできあがらない

お母さん!あんなに口は悪いけど優しいんだね。やはり母って感じだ。
この手の物語って毒親で酷いことされて子供がぐれたみたいな内容が多いと思うんだけど、この母は全くそんなの感じられません。
金がないとは言っていたけど、昔稼いでいたお金があるそうで。それを使っていないのは反省が感じられました。。使っていないお金を何に使えばいいとお母さんに尋ねたとき「優しいことに使え」って!母!まじでどんな経験したらそんな達観したことが言えるのか。
天使がいなくなってしばらくしてからも母の言葉で救われたので母様様です。

私の好きなシーン

p.38
人生、自分に価値があるかどうかではなく、価値を見出すこと。
めっちゃ天使っぽいこと言っています。それも平然というのが驚きです。頑張っていないのに価値がないと嘆くのは違いますよね。もちろん、頑張りすぎている人は現在の自分を認めることも大切だと思います。

p.54
外に出た天使が負の感情を感じるシーン。ほとんどの人が不満で溢れているようです。主人公が来たら落ち着いたそうだから、主人公は本当に温厚で優しい人なんだな。

p.103
スマホを買ってウキウキ二人を撮っている天使。写真を加工すれば、おしゃれになるはず、、、。天使「汚いままですね」
天使ーーー!その辛辣さに大爆笑です。最高か。男も全然怒らないし。優しいな。

p.108
初めて母親が登場するシーン。小さい頃はあんなに可愛かったのに今はこんなゴリラになっちゃって。という母。母のゴリラ性格が遺伝したと息子が言ったら、「ウホォ!?」と叩かれます。母もノリめっちゃいい。ゴリラの効果音存分に使いこなしています。

p.139
「セミが死に始める時期ですね」
私、春夏秋冬の言葉を使わずに季節を表すの大好きなんですよね。セミが死に始める時期は夏の終わり、8月下旬だとすぐにわかります。日本だけで通じる季節の表し方。情緒が感じられます。

p.174
男が天使の羽を触るシーン。にょいっていう効果音初めて聞きましたが、もう天使の顔が可愛いのでありです。私も羽をもふりたい。

後半で人生を楽しむぞ!って色々なところ行くのも可愛いです。周りの人には天使が見えていないので30歳のおっさんが一人でカラオケやレジャーパークに行きます。男が天使を連れていく場所がパチンコとかキャバクラとかで笑いました。

好きなシーンがほぼお笑い要素ばかりですね。お笑いシーンはまだまだあるので読みましょう。

終わりに

長い文章を最後まで読んでくださりありがとうございます。あらすじをちゃんと書いてみたのは初めてで、内容がわかりづらかったかもしれませんが書いていてとても楽しかったです。お恥ずかしながら、私も人生を嘆いている時期がありまして、この作品にひどく共感しながら読ませていただきました。私も天使のような人を見つけたらその手を離さず一緒に生きていきたいと思います。
ジャンルはBLだけど、BLじゃないねこれは。天使に性別という概念はない。性別、生死を超えた愛の物語を是非とも手に取って読んで欲しい作品です。

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