【怖い話】神楽舞のお面の話
以前、北陸オカルト会オンラインで話した、少し不思議な話。
私が小さかった頃、確か保育園児だった頃から小学校高学年にかけて、私は近所の神社で、例大祭で披露する祭囃子の舞手をしていました。
神社の名前は火を生む霊、と書いて、火産霊神社 。茨城県にある秋葉神社から分霊された防火の神様を祀る神社で、秋葉さん、という風に呼ぶこともあります。
件の祭囃子は「馬鹿ばやし」といって、約400年の歴史があるとかで、一応、県の無形文化財にも指定されています。舞台の中央に大太鼓を据え、笛・太鼓・鉦のお囃子方に合わせて、お面を付けた者がお囃子に合せて大太鼓を打つ、というものです。大太鼓を打つ合間に、面のキャラクターに合わせた仕草をするのがユーモラスな感じです。私は貴重な女子だったので、大抵お多福の役をもらっていて、真っ赤な着物を着て、恥じらうような仕草で太鼓を打っていたのでした。ちなみに、私は本当は、お囃子方をやりたかったのですが……。
保育園の頃はお遊戯会の延長みたいなもので、それこそ紙粘土で作ったお面を、頭の横にちょこんと付けて太鼓を打っていたのですが、ある程度大きくなった、10歳頃でしょうか。初めて、神社で保管されている古い木彫りの面を付け、例大祭の舞台に立つことになりました。
当時すでに瓶底眼鏡をしていた私ですが、眼鏡をしていては面を付けることができないので、裸眼で舞台に立つことになります。コンタクト? そんな洒落たもの、当時はまだそんなに普及してませんでした。それに、見えなくても、太鼓が叩ける程度には練習していましたし。
そんなこんなで、お祭りの当日、夜。
出番が来て、太鼓の影から姿を表して、お囃子に合わせて太鼓を打ち始めます。
太鼓を打つ合間、恥じらうように着物の袖で顔を半分隠して、そこでやっと、舞台から客席の方をきちんと見ます。
ぼけぼけの視界の中、オレンジ色の光が、ゆらゆらと揺れているのが見えました。人工的な光ではなくて、多分、炎。篝火、でしょうか? 人は、いたのでしょうか。がやがやざわざわと人の話す声がして、……そう、お酒の匂いも、したような?
ただ、初めての経験に緊張もしていたので、出番はあっという間に終わってしまって、なんとかトチらずに済んだことに胸を撫で下ろしながら面を外してもらい、眼鏡をかけ、クリアな視界を取り戻し、ほっと一息。
祭囃子も全て終わって、後片付けは大人たちに任せ、お祭りの縁日に繰り出そうとしたところで、はたと気づきました。
客席側では、篝火なんて焚かれていなかったことに。
設置されていたのは、白い光が眩しい投光器で、オレンジ色のゆらめく光など、どこにも見当たりませんでした。
あれ? そう思ったのですが、その時ふと、神社の狛犬と目が合って、なんとなーく、黙っておきなさい、と言われた気がして、それは結局、誰にも言わずに終わらました。
そのあと、色々な事情があって、私は舞手をやめざるを得なくなってしまって、神社とも縁が切れてしまいました。
それでも、あのお祭りの夜、もしかしたら垣間見たのかもしれない、今ではない何かの景色を、ふと、思い出すことがあります。