心臓弁膜症の診断と手術
あれから2年
「完全房室ブロック」という病気で救急搬送されて、ペースメーカーを植込んでから約2年が経過した。
当時のことは、ここに記録がある。
【コロナの最中、2021年12月に救急搬送された記録】https://note.com/n_ikoma/n/n5afa1f1d0175
退院後、初の検査は手術から3ヶ月後。
以降は半年ごとに検査を受けてきた。
心臓の検査というよりも、ペースメーカーの検査だ。ペースメーカーの会社の人と技師によって行われ、シャツの上から胸に小さな箱を置き、ノートパソコンで状態を確認したり調整を行う。まさかBluetoothではないだろうが、似たようなもので小さな箱(診断用デバイス)とペースメーカーが通信する仕組み。ペースメーカーのバッテリーのチェック、心拍スピード、信号の強弱などの調整ができる。バッテリー、稼働状況とも異常なし。
医師による問診もあるにはあるが、機器の検査後、ちょっとした会話をする程度で聴診器を当てることもない。
この調子だと電池は10年以上保つという。10年後には電池の(というよりペースメーカー本体の)入れ替えが必要になる。ワイヤレスで充電ができればいいのに、と思う。
寝ているときに、ごくたまに姿勢によって右脇腹あたりで筋肉がピクピク(twittingという)することがあった。本来、心臓を鼓動させるためのペースメーカーの信号が近くの筋肉に作用することがあるらしい。特に不快というほどでもなく、姿勢を変えれば収まる。検査時にその症状を伝え、信号強度を調整することにより発生頻度は減った。
もうひとつの自覚症状
実はもうひとつ自覚症状があった。それは、ごく軽い息切れ。
もともと心肺能力の高い方ではなく、若いときから陸上の中長距離は苦手だったし、ロードバイクでも人並みのスピードを維持するととても疲れた。でも、階段を上るのは2フロア程度ならハァハァいうこともなく、普通の生活で支障を感じることはない。
しかし、ペースメーカー植込み後、朝、着替えるときに軽い息切れを感じるようになった。昼間や夜に感じたことはほとんどない。が、朝の着替えの時だけ、なぜかほぼ毎日、軽い息切れがあり少し気になっていた。2023年10月25日、半年に一度のペースメーカーのチェックの際に、この息切れを申告した。
検査
循環器内科の医師に息切れの申告をすると、「検査しましょう」と心臓外科に回された。心臓外科の医師は、非常にテキパキとしていて、MRI、CT、その他の検査をする、という。その場でCT、MRIの空きを確認し「今日は空きがないが明日来れるか」という。内心、おいおい、そんなに急がなくても、と思うが口にはせず、あらためて検査に来ることにする。結局、翌日にCT検査、心臓エコーほかの検査を行い、6日後にMRI検査を受けることになった。CTとMRIって、どっちかを受ければいいんじゃないか、と思ったが、よく聞くとMRIは脳の検査らしい。「脳の検査???」
CT検査/造影剤使用
「CTは造影剤を使う」と言われ、40年前に造影剤で薬疹が出たことを申告。心臓の血管を検査するのに造影剤が使えないと、判別しにくい・できない画像しか得られないのは素人ながら推測できる。まぁ大丈夫だろうということで造影剤を使う。CTの台に乗って何度か撮影し、途中から造影剤を入れる。体がポッと暖まった気がしたが、それ以上、薬疹的な反応は出なかった。
血管伸展性検査/血脈検査
血圧計のようなものを両手首と両足首に付けて検査。よくわからないが、心臓が全身にバランス良く血液を送り出しているかどうか、という検査なのだろう。技師と少し話したが、それ以上のことはよくわからなかった。技師はぜんぜん深刻そうではなかったので、比較的気楽な検査だった。
呼吸機能検査
肺活量測定みたいな検査。息を一杯吸ってゆっくり吐いてゆっくり吸け、とか一気に強く最後まで吐け、とか。その場でディスプレイにグラフのようなもの、閉じた図形のようなものが現れる。何度かやり直さされたので、あまりいい結果ではないのかも、と思う。確かにトランペットを吹いていた若い頃より随分と肺活量が落ちている気がした。これはタバコが原因かと思う。
心臓エコー
心臓エコー検査は痛くも辛くもないが、かなり時間をかけて丁寧に検査された。途中、ディスプレイを見えるようにしてくれて説明があった。
「これが大動脈弁。開いたり閉じたりしているのがよくわかるでしょう?」
たしかに、弁が鼓動に合わせて開いたり閉じたりするのが見える。
「正常な場合より、開き方が少し良くない」
私の目には充分に弁が開いているように見えたが、正常だともっと一杯まで開くらしい。でも7~8割は開いているように見えた。
逆に弁がきちんと閉じずに逆流する弁膜症もあるが、私の場合は大動脈弁狭窄という分類になるのだとか。
脳MRI
MRIの検査は5日後。MRIは何度か受けたことがあるので、特に不安はない。ただ、ペースメーカーを入れている場合、MRI対応の機種でないとMRI検査は実施できない。X線を利用するCTと違い、MRIは強力な磁力線を用いて体の内部を映像化する。だからMRI検査室には金属の持ち込みは厳禁。ペースメーカーには金属部品が使われているはずだが、MRI対応機種は事前にMRI検査モードにすることによって受けることができるらしい。人工関節や骨折を止めるボルトなどが入っている場合はどうなのか、詳しいことは知らない。磁石に付かない金属ならいいのか。
MRI診察台に乗り、頭を固定される。そう、「頭の検査」なのだ。心臓なのに、なんで頭の検査なのか?簡単な説明はあったはずだが、よく理解できなかった。「手術できるかどうか」の検査と言われた気がする。
いま調べてみたら、心臓手術の前に色々な検査をするが、「MRIは頭部と頚部の血管を中心に脳梗塞の有無などの検査を行います」とある。
身体、特に頭を固定され、それなりの時間がかかったが、大きな音がするだけで、これも痛みや苦痛を伴う検査ではないので特に何事もなく終了。エコーのようにその場で映像を見せられるわけではなく、技師も必要なこと以外はしゃべらず、もちろんその場で所見の説明もなし。説明は次回の診察、11月1日の予定。
検査結果と手術の宣告
検査結果を聞く予定の11月1日の朝9時前に携帯が鳴る。運転中で電話に出られなかったが病院から。何事かと思ってコールバックする。重大な何かがあって、説明に家族を連れてこい、と言われるのかと思ったが、「担当医が急に休診になったから、日程の変更を」ということだった。
仕切り直して、11月8日に検査結果を聞きに行く。
その1週間の間に、ある程度の覚悟を決めつつ、自分なりにネットで弁膜症についてあれこれ調べる。
弁の置換をカテーテルで行う【TAVI】、正面から(胸骨を切って)胸を開くのではなく、骨を切らずに横(脇)から肋骨の隙間を通して手術する、傷口が小さく身体への負担が軽い【MICS】などなど。
心臓外科医の判断
結論から書くと私の弁膜症は、中度から重度の入り口。手術が必要とのこと。そして、身体への負担が軽いカテーテル手術【TAVI】も、骨を切らずに肋骨の間から行う【MICS】という手法も使えず、胸を正面から切開し胸骨を切って開く手術【胸骨正中切開】になる、と。
こりゃ大ごとだ。
大動脈弁狭窄、二尖弁(普通は3つに分かれている大動脈弁が2枚になっている)。どうやらこれは先天的なもので、一定の割合であることらしい。それに加齢に伴う、あるいは高血圧と関係する、そして喫煙にも多少関係しているようだ。
禁煙を命ぜられる。手術前少なくとも3週間の禁煙が必要。いまからだと最短で11月末に手術できる、と。
ちょっと待ってくれ!
それほど急に手術が必要だとは思っていかった。現状は中度から重度の入り口にさしかかりかけた弁膜症だと言ったではないか。軽度の自覚症状を申告して検査しようとなって始まったこと。倒れて緊急入院した訳ではない。
「少なくとも、年内は仕事の調整・引き継ぎなども必要なので」と腰が引けたが、まだ六十代だし、治療方法のある病気である限り、治療しないという選択肢はない。(ない訳ではないのだが、それは仕事や家族に責任あるものとして言う訳にはいかない)
ということで、次回診察日(12月6日)にスケジュールを決めることとした。
入院・手術が決まって禁煙する
結局、1月18日に入院し、22日に手術することになった。手術前最低4週間は禁煙せよ、とのことで禁煙生活に入る。最初の1、2日は「禁煙始めるの、もうちょっと後でもいいや」と吸ってしまう。いわゆる禁煙失敗。しかし、数回目のトライで丸2日の禁煙に成功したら、あとは続けられている。時々吸いたくなるが、手元にタバコはないし、買いに行くには至らない。FRISK舐めたり、深呼吸したり。
入院準備
入院・手術、そして退院後も1ヶ月以上の療養が必要で、その準備をあれこれ。病院からパンフレットを貰ってきたので、必要なものを確認。血栓防止の薬をしばらく飲む関係で、これまで髭剃りはカミソリを使ってきたが電気のシェーバーを買う。入院中、病室・院内で踵のないスリッパはダメとのことで、踵のあるスリッポン・スニーカーを買う。ちょっと調べてみたが、結局テレビで広告してるSKECHERSをひとつ、ポイントが貯まってたので1千円ほどだけ足して買う。ほかに、mont-bellで重ね着用のダウンベストとスニーカー用ソックスなどを調達。まだ1ヶ月以上あるので必要なモノはぼちぼち。
それよりも、会社を休むための準備をしなくてはならない。入院で穴をあけることになる役割をいくつか代わってもらう段取りをつけ、1月中旬からの入院準備を整える。
ここまで自分でも意外なほど平静に、淡々としていた。入院準備の買物を楽しんですらいた。
が、手術1ヶ月前となった週末、家でのんびりしていて、急になんとも言えない気分に襲われる。
心臓手術は全身麻酔で行われるから、始まってしまえば何も感じない。気になるのは胸骨正中切開の予後、復帰まで時間が掛かりそうなこと。手術で人工心肺を使用する、つまり自分の心臓は一旦止められてしまう、ということも考えればなんとも言えない気分になってしまう。手術そのものと術後の感染症や肺炎などで命に関わるリスクか1~2%。
こんなことを考えると、入院までの1ヶ月を平静に過ごせるだろうかと不安が高まる。
人間は生きている限り必ず死ぬ存在だから、それ自体は怖くはない。
でも万一の事態が起こる可能性があるなら、遺書のひとつも書いておかねばならないのではないか。
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