怒られると笑ってしまう癖
私はダメな大人だ。その例の1つに、他人に怒られると、どうしても笑ってしまう。様々な場面でこのやっかいな性質は出てきてしまうのだが、どうしても我慢出来ない瞬間というのが「みんなで怒られている時」だ。怒られている時のあの独特な静けさ、みんなの俯向く姿をどうしても客観的に見てしまう。その中で1人猛烈にキレている人の熱気を感じるだけで、即KO。「N氏アウトー」と、脳内であの有名な声が響き渡る。その瞬間、拷問に似た笑い地獄が私を襲うのだ。
那須で待ち受けていた、笑いの拷問
この歳になると、なかなか団体で怒られるという状況に遭遇しない。だから、油断していたのだ。その時は笑いの拷問が私を襲うなんて、予想もしていなかった。この話は、最近、小学生からの仲の友人2人と那須の旅行に行ったときの出来事だ。我々が一緒に旅行に行くというのは実に6年ぶりで、私の提案により「モンゴルのゲルに泊まろう!」ということになった。この旅の最大の醍醐味は、もちろんゲルに泊まること。そのため、目的地は那須になったし、1日目のプランのほとんどは、ゲルでの夜を最大に楽しむための準備(BBQ・キャンプ)が行われた。「楽しみだねー!」「わー!ゲルってどんなんだろうー?」などと、ゲルへの想い胸に抱きながら、大量の荷物を抱え、私たちはゲルの受付ベルを鳴らした。
♩ピンポーン
店員「いらっしゃいませ。ご予約の名前をお伺い致します。」
友A「〇〇です。」
店員「〇〇さま...〇〇さま....」
店員が名前を検索している間も、キャピキャピとはしゃぐ私たち。しかし、一向に店員は私たちの部屋を案内してくれない。あれ?ちらっと不安はよぎったものの、尚はしゃぐアラサー3人。すると店員が衝撃の一言。
店員「あの...申し訳ございませんが、本日の予約がキャンセルになっております!!!」
3人「!!!!!!??????」
まさかの事態に、驚くアラサーたち。
友B「これはまさかの、車中泊かっ!?」
友人Bの声が受付に響き渡る。その一言を引き金に、友人Aが猛烈に店員に異議申し立てた。友人A曰く、1度インターネットから申し込んだのだが、プランを変更しようとおもい、ゲル側に電話をしたそうだ。その時の担当が、電話で変更を承ったのでインターネットでの変更はしなくてよい、こちらですべて変更しておくと言ってきたとのことだった。しかし、状況を調べてみると、ゲル側の手続きミスで、変更どころかBBQだけやるという変なプランに変更されていたのだ。確認してまいります!と慌てふためく店員。
第1の刺客:女版チンギスハン
友A「BBQだけやるとか、どんだけ肉食いたいと思ってんだよ!!!」
私たちの中で、怒ると最も怖い友人A。店員が奥に引っ込んだ瞬間、舌打ちしながら自分はちゃんと予約したと電話の履歴を私たちに見せる。その怒りの形相に、私は冷や汗が出てきた。ま、まずい...このままだと、笑いが、、、笑いがこみ上げてしまう。最悪の状況を想定した私は、自分の心を沈める準備に入った。吸って、吸って、吐いて、吸って、吸って...そうしていると状況を何も知らないモンゴル人の女性従業員が、友人Aに向かって
モンゴル「オキャクサマ、ゴヨヤクノ、オナマエは?」
と何食わぬ顔で聞いてきたのだ。
な、なんてことをいうんだ、そこのモンゴル人の女よ!!!!今、ここでの怒りのやり取りを見ていなかったのか?キャンセルうんぬんの話を繰り広げてたでは無いか!!と心の中で突っ込む私を尻目に、状況を何も察していないモンゴル人の女。友人Aは氷の声で言う。
友A「〇〇ですけど...」
モンゴル「〇〇サマ、.......キャンセルサレテオリマス!!!!」
うおおおおおお!!!もう、やめてくええええええええええ!!!!!!!!これ以上、私に笑いの追い討ちをかけるんじゃねぇええええええええええ!!
友人Aの引きつる表情と、モンゴル人のあっけらかんとした顔のコンビネーションが私の笑いのツボを次々と押してくる。このままだと、笑いのマーライオンが飛び出すのも時間の問題だ....。しかし、私がここで笑ってしまったら、友人Aはもっと怒ってしまうはず。耐えろ、耐えるんだ私。25歳のいい大人が我慢しないでどうする!!!!
友B「あ、なんか今奥で確認してもらっているみたいで...」
モンゴル「ア、ショウショウオマチクダサイ」
友人のナイスアシストにより、笑いの刺客であるモンゴル人は奥に引っ込んだ。...助かった。ありがとう友人B。
第2の刺客:メガネ洗浄機
笑への落ち着きを取り戻した私を含めた、アラサー3人は確認待ちのためロビーで待機していた。冷静さを取り戻すと、周りにあるモンゴルの民族衣装や、小物が目に入った。どれも、鮮やかで綺麗だ。フッとテーブルに目をやると、ご自由にお使いくださいと書かれた「自動メガネ洗浄機」が置いてあった。
友A「あ、私これやろー!」
さっきまで荒ぶっていた友人Aだったが、なんかごめんねーと苦笑しながらメガネを洗浄し始めた。90秒ほどでメガネが綺麗になる仕組みのようで、洗浄が完了するとランプが点滅した。私もやろうと思い、開始ボタンを押したとき、ちょうど奥から1人の女性が出てきた。
責任者「あの、私この施設の責任者の〇〇でございます。この度は、私たちの手違いで予約がキャンセルされてしまっていたこと、誠にお詫び申し上げます。」
友A「あ、そうですよね?そちらの手違いですよね?」
責任者「はい、大変申し訳ございませんでした...」
友A「ということは、今日泊まるゲルはないってことですか?」
責任者「そうですね....大変申し訳ないことに....」
友A「いやいや、まず私たちはこちらのゲルに泊まりたくて、わざわざ那須にきたんですよ?」
あたりに気まずい空気が漂い始める...。友人Bに目をやると、顔を下に向けて神妙な顔持ちで一点を見つめている。まずい....その友人Bの顔をみると、また私の悪い笑いがうずきだす。やめてくれ、B。そんな空洞のような死んだ目で、一点を見つめないでくれ....。もうきっとこの頃には、私の笑いを堪える顔は全面に出ていたのかもしれない。だめだ、だめだと思う度、プゥ、プゥと口から息が漏れるのを感じる。それをバレたくない一心で
私「あの...そうしたら私たちは、今日どちらに泊まればよいのでしょうか」
と私は、話し合いに参加している。私は、笑いを我慢しているわけではないと自分に言い聞かせるように発言した。
責任者「そちらの件なんですが...」
ブーーーーーーン、ブーーーーーーンンン
なんだ!!!!この音は!!!!!!!突如、責任者の声を遮るかのようにメガネ洗浄機の洗浄音が鳴り始めた。ブーーーーンという音が、責任者の声と被ってなんとも聞き取りづらい。やめろ!!!!洗浄機!!!!!責任者の大変申し訳なさそうな顔と小さな声を、洗浄機はブブブブーーーーンと消し去ってくる。最悪だ!!!!!こんなクソ真面目な空間で、自己を轟かすんじゃねええええ!!!!笑いのダム決壊が決壊しそうになったので、私はバレないように自動洗浄機を止めた。
最後の刺客:まさかのYOU!
うるさい洗浄機のせいで、責任者が何を言っているのか一切聞き取れなかった。しかし、残りの2人が聞いておいてくれただろうという信頼感もあり、もういっかと気をぬいていた矢先。怒りの形相で、友人Aは
友A「あの!!!!もう一度言ってもらっていいですか?」
と言ったのだ!!!!!!!聞いてなかった!!!!真剣にずっとうなずいている友人Aだったが、まさかの聞いていなかったのである!!!!!あの、真剣に頷いている様子はなんだったのか!?!?!?あの怒りの形相はなんだったのか!?愕然とした私は、そのまま笑いが吹き出し、それを隠すのを必死で無い靴ひもを結ぶ振りをした。そこから責任者の2度目の説明を、無い靴ひもを結ぶふりを、ずっとした。ずーーっとした。なんなら、全部ことが解決するまで、友人ABに任せて、ずっと靴ひもを結ぶ振りをした。その歳、今まで耐えた笑いの刺客たちが、私の脳裏に走馬灯のようによぎっていた。プゥ、プゥ、私の口からやる気の無い音だけが、ただ漏れている間に話はまとまっていた。代わりの宿を用意(宿泊費無料)、BBQ無料、モンゴル衣装撮影代無料と、椀飯振舞だった。そのおかげで、友人Aの機嫌も回復。私の笑いもバレずに済んだと思い、肩を下ろしていると友人Bが
友B「N氏、ずっと笑ってたでしょ?ない靴ひも結ぶ振りしてたけど、全部バレてたよ!私、その様子に気づいて笑いを堪えるのに必死だったんだから!」
と笑い泣きしながらぶっ込んできた。
私「あ?バレてた?w」
友A「え、そうなの!?人が真剣に怒っている時に、やめてよ!!ww」
友B「ってか、モンゴルの衣装無料で着れるとかラッキーだね!早く選んで撮影しようよ!」
私「そうだね!!どれにしようかなー?」
最後は円満に終わり、メガネを洗浄機から取り出す。終わりよければすべてよし♩メガネも半分綺麗になったかな?コラコラ!私のこの悪い癖もどうにかしないとなーてへへっ☆と思いながら、衣装を選んでいると
モンゴル「イショウノリョウキン、マエバライニ、ナリマス」
と最後まで、状況を察していないモンゴル人の女性に、私たちは唖然とするのであった。
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