【書評】AI vs. 教科書が読めない子どもたち_新井紀子
AIが我々の仕事を奪う。
(個人的にこの表現は嫌い…)
今ある職業の半数以上が、近い将来AIによってなくなると言われています。
この本には、そんな時代に生きる私たちに何が足りないのか?これから将来を担う子どもたちに必要な教育は何なのか?について書かれています。
去年からこの本の存在は知っていたのですが、なかなか読めず…
このGW期間を使って読んだ内容を3つだけ簡単にまとめたいと思います。
こんな人にオススメ!
・教育に関わる人
・これから子育てをする人
・多くの企業で人材育成に関わる人
AI vs. 教科書が読めない子どもたち
著者について
新井紀子氏
国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。
専門は数理論理学。
2011年〜人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」
2016年〜「リーディングスキルテスト」の研究開発
著作物として、「ハッピーになれる算数」「生き抜くための数学入門」「数学は言葉」「コンピュータが仕事を奪う」がある。
ポイント① AIは計算機に過ぎない
AIは入力に応じて「計算」し、答を出力しているに過ぎません。
AIというと多くの人が、人間の能力をいずれ超えるのではないのか?と考えがちです。しかし、AIはあくまで計算機であり、技術です。
現在では「画像認識技術」や「音声合成技術」「情報検索技術」に活用されているAIですが、それらはいずれも計算可能な事象を扱っているに過ぎません。
AIは、入力されたデータを四則演算で計算し、出力します。そのため、入力するデータは数値化できるものでなければなりません。
では、AIが完全に人に置き換わることができるでしょうか?
答えは否です。(かなり難しいということ)
もし、置き換わることができるのであれば、人間の意識・無意識をすべて数値化できるということになってしまいます。
「あなたのことが好き」
をコンピュータで数値化できるでしょうか?
いや、できませんね。そこまで複雑な心理状態の数値化はかなり難しいと言えます。
実際に、AIは文章の意味まで理解できません。
「私はあなたのことが好き」と「私はカレーが好き」という文章の意味の違いまでAIは区別することができないのです。
AIはあくまで計算機です。計算機は一般的に数学の中で用いられます。
数学は「論理」「確率」「統計」の3つの言葉でしか、事象を表現することができません。したがって、計算機であるAIも3つの言葉しか扱えないのです。
人間の行動が「論理」「確率」「統計」で表現できないことは自明のとおりです。
まずは、AIは万能であるという考えを捨てましょう。
ポイント② 将来、どんな人材が求められるのか?
どこの大学に入学できるかは、学習量でも知識でも運でもない、論理的な読解と推論の力なのではないか、6000枚の答案を見ているうちに、私は確信するようになりました。
AIにはできないことができる人材。
これが将来求められる人材でしょう。
AIの弱点は
・ビックデータがあって、はじめて一を学ぶ
・応用が利かない
・柔軟性がない
・限定された枠組みの中でしか計算処理ができない
などです。
そのため、これから求められる人材の特徴は自ずとこの逆になります。
著者は、特に一を聞いて十を知るような読解力に注目をしています。
そのきっかけは、著者が中心となっておこなった「大学生数学基本調査」でした。
なぜ大学生との論理的なコミュニケーションが成り立たなくなったのか?
入試のスキルを問わないこの調査で、この疑問に対する答えになり得る1つの推測に行き着きます。
それは、
「数学ができないのではなく、そもそも問題文(教科書)を理解していないのでは?」
ということ。
もしこれが本当であれば、論理的な会話が成り立たないのもうなづけます。
相手が言っていることの意味をほとんど理解できていないということですから。
論理的な会話が成立しないということは、大学在籍中だけでなく、社会に出てからも不利益をこうむることになるでしょう。
なぜなら、会話の意味まで考えられる円滑なコミュニケーションは、AIにはできないことだからです。
つまり、将来AIにとって置き換われない人材となるためには、意味を踏まえて深く理解する力が必須なのです。
ポイント③ 多くの子どもは、文章の意味を理解していない
その学校の教育方針のせいで東大に入るのではなく、東大に入れる読解力が12歳の段階で身についているから東大に入れる可能性が他の生徒より圧倒的に高いのです。
著者がいう読解力は、行間に隠されている意味を読み取る力ではありません。文章の意味や内容を把握するための力です。
「そもそも問題文を理解していないのではないか?」
という仮説を証明するために、著者は中高校生の「基礎読解力」を調査します。
結論から言うと、
「中学生の3人に1人が簡単な文章を理解できていない」
という事実が判明します。
そして、「基礎読解力が低いと、偏差値の高い学校に進学できない」という結果に著者は行き着きます。
この調査で活用したのは、著者自らが開発したリーディングスキルテスト(RST)です。
RSTでは、以下の6つの種類の問題を出題し、基礎読解力を測ります。
①係り受け
②照応
③同義文判定
④推論
⑤イメージ同定
⑥具体例同定
ちなみに、AIは①と②を得意とし、あとの4つは苦手です。
基礎読解力が低い子どもは、
・知らない単語が出てくるとそれを読み飛ばしてしまう
・単語の意味を考えず自身の経験から答えを予測する
などの習性によって、確率や統計に基づくAIと同様の間違いを起こしているようです。
なぜ、子どもの成績に差が出るのか?という疑問に対して、授業云々というよりも「そもそも教科書が読めていないから」という1つの推測は、当たり前のようで誰もその可能性を考えてはいなかったのではないのでしょうか?
基礎読解力が高い子どもは、教科書を読めばその内容を理解できます。
そのため、ギリギリまで好き勝手にしていても、ここぞというときには力を発揮し、学校の成績を簡単にあげることができるのです。
基礎読解力の高い低いで、その人の人生を左右されてしまう可能性があるのであれば、教育現場は早急に「きちんと教科書を読める」ということを念頭に置いて、コーチングを進めていかなければならないでしょう。
まとめ 〜何歳になっても基礎読解力は鍛えられる〜
この本を読んで、ハッとさせられました。
その理由は、私が授業(生物)のときに生徒に言っている言葉を思い出したからです。
「生物の授業なんて、教科書を読めば大体は理解できる」
もし、この本に書かれていることが真実の1つであるのであれば、子どもたちは成績をあげるために教科書を読むことすらできないということになります。
これまでの大学入試は、汎用的な理解力・暗記力・公式に従って解く能力を測られていました。要は産業界が就職希望者をスクリーニングするために行われていたと言っても過言ではありません。
しかし、汎用的なこれらの力は将来AIによって容易に置き替わられてしまうでしょう。
そうならないためにも、どんな教科書でも読めて、その内容をしっかりイメージできる力を子どもたちがつけられるような手助けを講じるべきなのではないでしょうか?
ちなみに、著者は基礎読解力は何歳からでも鍛えられるとのこと。この意見は、リーディングスキルテストに関わった男性の文章力が飛躍的に高まった事実によって下支えされています。
いろいろ考えさせられる一冊でした。
おまけ
基礎読解力は
・読書習慣
・学習習慣
・得意科目
・新聞の購読の有無
・性別
などによって影響を受けないことがわかっています。
つまり、何が子どもたちの読解力を決めるのかよくわかっていないようです。
ただし、生徒の就学補助率が高い学校ほど読解能力値の平均が低いことは事実のようです。つまり、貧困と基礎読解力には強い負の相関関係があるようなのです。
もう一つ付け加えると、読解力は高校では向上していない事実も…
人の読解力の成長が15歳までて止まってしまうのか?高校で読解力を鍛える取り組みをしていないのか?原因は不明です。