雑記 人の気持ちを考える 2024/11/18

この人は悪い人だから理解できない。誠実じゃない人に誠実さを見出すなんてできない。

…なんて言葉を聞いた。

文学国語の時間、今は夏目漱石の「こころ」を読んでいる。
先生の遺書の佳境も佳境、お嬢さんと先生の結婚が決まり、Kへの罪悪感に苛まれているけれど周りに言いだせないシーン。

問題。
「真面目な私」とあるが、このときの私にはどのような誠実さがあるか。


真面目という言葉には小心者の意味合いも含まれている。
だから、Kを裏切ったことを言い出せないのは小心さからくる自己保身の考え方のせいだと捉えられるだろう。

私は罪を言い出せない苦しさを知っているのでだいぶ先生に感情移入していて、簡単に解ける話だ。でも、先生が悪い!裏切者!って風にとらえてる子たちには難しいのかもしれない。


解答。
結婚前に結婚相手の倫理的弱点を知らせて、お嬢さんを傷つけたくないという誠実さ。


私に言わせてみれば、先生は開き直ってKをより追い詰める選択もできたわけで、でもそこで悩んで動けなくなったということは十分に良い人だ。


私は誰にでも感情移入ができるという、国語のテスト以外であんまり役に立たない特技を持っている。

クラスにはそれとは正反対の、めちゃくちゃ気が強くて自分が正しいと思ったことを貫くタイプの女の子がいる。仮にその子をAちゃんとする。
別に私が絡まれるような事態にはならないので、感情移入できるものに出会えなかったんだろうなぁと呑気に、遠巻きに見ている。

そこで、最初のあの発言だ。こりゃあ面白いこと言ってくれるなぁという感じだった。私からは絶対に出てこない発想。


例えば。

世の中には忌み嫌われる人種がいる。犯罪者はその最たる例だ。
たぶん、Aちゃんのような人たちは彼ら彼女らを許さないと思う。正しくないから。間違っているから。…あるいは、悪い人だから。

でも、その人が虐待され続けて我慢できなくなって人を殺したことを知れば、態度はくるっと変わるだろう。

私は、その人が罪を犯した理由を知るまでは…というか、たぶん知ってからもその人を否定するようなことは言えないと思う。


私はどこまでも性善説論者だ。
全ての人間は生まれたときみんな良い人で、そこからどう育つかによって、大人になったときに良い人か悪い人かが決まるだけだと思う。

貧しい環境で過ごしている人たちが努力していない訳がない。
きっと、そんな人たちは上手く万引きをする努力をしているだろう。私たちが想像するような努力を、そもそもできないような環境に生まれた人もいる。



考えてみれば、「こころ」の先生はなかなかに不憫なひとだと思う。

帝大生というだけで周りからは"特別扱い"——尊敬のある腫れ者扱いをされ、信用していた叔父に裏切られ、自分が好きになった相手を親友に盗られかけ、挙句、Kを殺した、なんて二度と解けない呪いをかけられ…。

先生が犯したミスはあまり多くない。先生の状況を考えれば、致し方ない選択だったと思う。その小心さも、先生のせいではない。色々な人に裏切られ、遠ざけられて生きてきたら、そりゃあ臆病になるだろう。

にもかかわらず、あまりにも悪者として描かれすぎではないか。
情状酌量の余地、ありすぎでは?


切実に、先生のような人に幸せになってほしい。
…そう思う読者は、どれくらいいるだろうか。少数派なのかもしれないな。

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