パラレルワールド
そこは四方八方真っ白で見渡す限り何もない場所だった。
そこで、子どもがひとり、立ち尽くしている。3歳ぐらいか。女の子だ。小さくて柔らかな身体で、子どもの匂いがする。つやつやのおかっぱの髪。緊張した不安げな面持ちで立っている。私は子どもが嫌いだ。嫌いだが、たったひとりそこに子どもがいると気になる。親はどこなのだ。その子どもの、なんだか蒸し立ての中華饅頭みたいな具合の、ほかほかとあたたかな「気配」がこちらまで伝わってくる。私は子どもから3メートル程のところに立って、ただぼんやりとその子を見ている。
子どもが私に気づいてこちらを見た。多分、自分の親か、或いは、とにかく子どもの知っている人ではないと知ったのだろう、落胆と怯えを足したような、複雑な表情でこちらを見ている。
私はその子どもをじっと見る。
子どもは、目をぱちぱちさせて、狼狽えた様子でこちらを見たり目を伏せたり忙しい。私は居た堪れなくなって声をかけた。
「こんにちは。どうしたの?」
子どもは何も言わないで固まって怯えている。私はますます居た堪れなさが増してきて胸がきゅうきゅうと切ない。
「こんにちは。」
私が何者でどんなつもりがそこにあろうとも、この子どもにとっては単純にただの見知らぬ人で、不審と不安を覚えるばかりだろう。ひとりぼっちで心細かったところに、とにかく誰か人間がいて安心したいような、だけど、やはり安心できない。
子どもにとってここに居て欲しかったのは私なんかではなくて、きっと誰かこの子どもにとって特定の誰かだったに違いない。
だけど、ここにいるのは私だけなのだ。
子どもは今にも泣きそうなまま、泣かないで狼狽えながらも小さな身体をぎゅっとさせて耐えている。
私は子どもをじっと見て、それからしゃがんで、目線の高さを合わせた。
子どもはますます怯えて落ち着かない。
「ねえ、お隣に座っていい?」
子どもは返事をしない。
「お隣に座るよ」
黙っている子どもの近くまで歩いて、隣に座る。
子どもって小さいなあ。座った私の横に立って同じぐらいの背の高さだ。
どうしたらこの子が安心できるだろう?ああ、私も不安なんだよ。
困ったなあ。
「ねえ、疲れない?座ったら?」
なんだかますます狼狽えている。
「並んで座ったら?」
おずおずと並んで座る。
子どもの匂いがする。
あたたかな匂い。生きている匂い。
黙って座る。
途方にくれたままで。
ひとりきりよりは、少しだけいい。