冷たい食べ物と出前
「病院の朝ごはんは大体、冷たい。」牛乳やパン、サラダ、ヨーグルト、和食ならおひたしや和え物など、必ず、みそ汁やスープ、加熱調理されたおかずも出るが、温かいものを好む中国の人から見れば、全体的に身体を冷やしそうなものばかりである。中国には「坐月子」という風習があり、産後の女性がしてはいけないことがたくさんある。なかでも特に、「体を冷やさないこと」は最も重要視されている。
ある中国人産婦の夫は、妻が入院して以来、毎朝温かいお手製弁当を病棟に運んだ。彼も仕事があるので、毎朝来るのは7時半前後である。この時間帯はもちろん面会時間外であり、さらに病棟では朝の検温や採血、朝食の配膳…と非常に忙しい時間でもある。そのため、彼がやって来てあっという間に妻の病室に入っていくのをナースステーション前で止めるのは至難の業であった。
産婦人科病棟はその名のとおり、女性の患者さんしかいない。そのため病棟の面会時間以外、病棟内でドクター以外の男性の姿を見かけることはない。それが普通である。そのため彼の姿を見て、当然、入院患者さんからの苦情が続出した。そこで、夕方の面会に来た夫に、朝早く、弁当を持ってくるのをやめるように伝えた。しかし、夫はスタッフから一方的に日本語でとがめられて納得がいかなかったのだろう、また次の日も同じようにやって来た。
日本人にとって非常識な行為であるが、中国人にとっては必要だからしているだけなのだ。彼としては、妻の身体は何よりも大切である。母親が元気であれば子供も丈夫に育つ。私は時間をとって、日本の病院の決まりごとについてや中国のお産にまつわる文化についてなど、夫とじっくり話をした。私はそれなりに中国語を勉強してきたが、中国らしいお産への考え方については、実はそのときまでよく知らずにいた。
中国では子供を産むお母さんをとても大事にする。産後はお風呂にも入らないし、もちろん髪も洗わない。家事はせず、ご飯を食べるだけで、数週間ベッドからも出ない人もいるそうだ。そんなことを私はそのとき初めて、このパパから聞いて知ることができた。家族のために精一杯やっている彼に、むりやり日本のやり方を強制するべきではないと思った。そこで病棟の先輩と相談して、温かい食事を持ってくることを了承してもらい、また一方で彼には、朝の時間帯は病棟内に立ち入らず、ナースステーションに弁当を預けて方法で納得してもらった。
日本人同士であっても、共通の認識がなければ、同じものを想像することは簡単ではない。国や文化が違えば、なおさら。そして、お国による違いがあることは誰でも容易に想像できるが、その違いを認めて理解するのはかなり難しい。できることなら、相手の国をよく理解する人間のサポートが必要である。中国語学習はそのサポーターを増やす秘策となってくれるはずだ。医療現場での中国語には、お互いのさまざまな文化的摩擦を明るい笑い話に変えるパワーがある!
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