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第2のビートルズ選手権
定期的に登場する「第2のビートルズ」
もはやレコード会社のマーケティングネタの定番と言える「第2のビートルズ登場!」的な宣伝文句ですが、これ意外と深いネタでして。そもそもビートルズらしさとは何じゃらホイから考えると実に難しいわけです。
ビートルズといっても初期のマージービートの時代から中期のバラエティあるサウンド期、67年前後のサイケ期、68年以降の成熟したポップ期と分けられるわけで、どの時期の影響にあるバンドなのかによっても評価が分かれそう。
今回はいわゆる定番どころの第2のビートルズと言われたバンドたちを検証してみましょう。
Badfinger (1969-1975)
そりゃあ、彼らのアップル・レコードから出てきているだけでもバッドフィンガーは第2のビートルズを名乗るだけのアドバンテージがあるし、ポール・マッカートニーが提供した"Come And Get It"がデビュー曲なわけですが、ピート・ハムとトム・エヴァンスいう屈指のソングライターが2人もいたことは記憶に留めておきたいバンドですね。
有名曲はニルソンやマライア・キャリーのカバーでも知られる"Without You"ですが、今回はトムによる曲、"Maybe Tomorrow"(バッドフィンガーの前身、アイヴィーズの頃の楽曲)
ご存知の通り、バッドフィンガーはピート、トムの二人とも自殺をするという悲劇的な幕切れとなり、性悪のジョーイ・ラモンドがやりたい放題(と言われています)に。
彼らの音楽性は65年の"Rubber Soul"あたりの雰囲気がしますね。
Raspberries(1970-1975)
エリック・カルメン率いるバンドで、ビートルズのアメリカでのレコード会社であるキャピタルから登場しましたが、アイドル的な人気が中心だった模様。ポイントはエリック・カルメンの作曲能力で、のちにソロでクラシックと融合させた"All By Myself"や”Never Gonna Fall in Love Again"という超名曲も生み出した、ポール・マッカートニー直系の人物。
新田恵利「若草の招待状」(作曲:高見沢俊彦)でパクったと言われる元曲はこれ。
彼らの音楽性は初期から中期にかけてのビートルズのイメージでしょうか。
10cc (1972-1983)
バッドフィンガーやラズベリーズによる「第2のビートルズ」のイメージとはポール・マッカートニー的なメロディセンスですが、10ccはエリック・スチュワート&グラハム・グールドマンのポール派とケヴィン・ゴドレー&ロル・クリームのジョン派と総合的にビートルズに最も近い音楽性のように感じます。
初期は"Rubber Bullets"や"Donna"のようなノベルティソングっぽさがあるものの、徐々に王道ポップへ。代表曲"I'm Not in Love"(ビリー・ジョエルが"Just the Way You Are"でアレンジを参照)をはじめ、名曲だらけです。
ゴドレー&クレームの先鋭性が評価されるバンドですが、彼らが抜けた後のスチュワート&グールドマン路線も好きなんですよね。
彼らの音楽性は中期から後期にかけてのイメージがします。
Electric Light Orchestra (1970-1986)
ビートルズ・フォロワーの中では最も成功したのがジェフ・リン率いるELO。創設者であるロイ・ウッドとジェフ・リンはおそらく1967年頃(特に"Magical Mystery Tour")の音楽性に影響を受けた人たちで、1980年代に入ってからはオーケストラに依存しない形になりましたが、それまではビートルズっぽさがありながら個性的なサウンドは特筆すべきものでした。
ELOの絶頂期はアルバムでは"A New World Record", "Out of the Blue", "Discovery"の三部作で、これはもう絶品です。
それにしてもジェフ・リン、後にジョージ・ハリスン、ポール・マッカートニーのプロデュースになり、ビートルズの復活シングルにまで関与した訳ですから、最高の音楽人生ですね。
The Knack (1978-1982)
時代はグッと下がって80年代へ。ザ・ナックの"My Sharona"が大ヒット。アルバムジャケットがモロにビートルズのセカンドアルバム("With The Beatles")で、音楽的にも完全に初期の感じで、彼ら自身はアメリカのバンドですが、イギリスのパンクを通過したようなストレートなロック。
彼らは一発屋のイメージがありますが、何度か再結成を繰り返してからは再評価されつつありました。が、そこで本当に残念ながら中心人物のダグ・フィーガーが2010年に逝去。
XTC (1978-2006)
XTCに関しては、第2のビートルズというより「裏ビートルズ」という呼び方が最もしっくりくるヒットチャートからは遠い存在(実際はちゃんと英トップ10ヒットもあるんですが)。
アンディ・パートリッジのひねくれセンスとコリン・ムールディングの王道ポップセンスという個性は日本でも人気。とりわけ1986年のトッド・ラングレン・プロデュース(アンディと大ゲンカに終わる)"Skylarking"は必聴です。
彼らにも(売れなかった)名作は多く、スティーヴ・リリーホワイトの初期のゲートエコーが炸裂する傑作"Black Sea"、パラノイア的な"The Big Express"、60年代サイケを再現した変名プロジェクトThe Dukes of Stratosphearなど、どれも聴きどころあり。
Jellyfish (1989-1994)
アンディ・スチューマー、ロジャー・マニング、ジェイソン・フォークナーといった才人を輩出したのが90年代のジェリーフィッシュ。彼らはXTC同様、ヒットには恵まれなかったにも関わらず、評価が高いバンドで、今やパワーポップの代表格のような存在に。
この後のベン・フォールズ・ファイヴやオウズリーにも繋がる道を示した重要バンドです。ビートルズの全キャリアを反映していうような感じですね。
この曲は後にマクフライもカバー。たった2枚のアルバムで伝説となったバンドです。
他にも…
ベイ・シティ・ローラーズ、デュラン・デュラン、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、オアシス、ワン・ダイレクションなど、大ブレイクした新星には「第2のビートルズ」と呼ばれたものですが、彼らはそこまでビートルズ的ではない(オアシスの"Whatever"だけは別)ですし、ある意味では「第2のビートルズ」と呼ばれるのはバンド活動としては足枷にしかならない感じも。是非是非前述のバンド共々、それぞれの音楽性をきちんと聴いてくださいね。