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闘う人を見て心から叫んだ日(2024年1月4日、新日本プロレスを観戦して思ったこと)


心から叫んだ

「ふざけんな」「帰れ」

 ごく一般的な小市民として暮らしていたら、まず発することはない言葉だろう。
 こんな言葉を誰かに向かって言おうものなら、後が大変なことは目に見えているし、誰かから言われたとしたら不愉快極まりない。
 しかし、こんな言葉を心から叫んでも許される空間に、私はいた。

 1月4日、東京ドーム。
 次々と繰り広げられるプロレスの試合に心が揺さぶられ、推し選手への声援にどんどん力が入り、メインイベントの決着がついた時にはピークに達していた。

 その瞬間を狙っていたかのように現れた乱入者、EVIL&ディック東郷……。
 勝者・内藤哲也選手の宿願である東京ドームでの大合唱を阻み、己がチャンピオンだと言い張る暴挙に、観客から次々と声が上がる。
「ふざけんな!」「帰れ!」
 何ならもっと激しい罵倒の言葉も飛ぶ中、私も「帰れ帰れー!」と叫んでいた。
 心を揺さぶられ、感情のままに叫ぶ。その瞬間に、ある種の解放感がある。祭りの感覚に通じるものかもしれない。何にせよ、心から叫んだ。
 リング上ではSANADA選手が乱入者を排除し、ドームは一転、大喝采。内藤選手による大合唱は無事に果たされた。

ヒールレスラー考

 いい大会を観られたな、と思う。
 ただ1つだけ、心に引っかかっている顛末がある。

 第4試合、スペシャルタッグマッチ、清宮海斗 & 海野翔太 vs 成田蓮 & “キング・オブ・ダークネス”EVIL。
 海野選手のバイク入場にものすごくテンション上がる。
 対する成田選手はHOUSE OF TORTUREの面々と共に花道を進み、EVIL選手がノアのTシャツを切り裂くパフォーマンスを見せる。ブーイングは当然起こり、清宮選手も一瞬で頭に血が上った様子。
 試合は、やりたい放題のHOUSE OF TORTUREに、海野選手と清宮選手が果敢に打ち込んでいくも、海野選手が成田選手に討ち取られるという幕切れだった。
 リング中央で大の字に倒れる海野選手を取り囲むHOUSE OF TORTURE。数の暴力で海野選手をボコボコにするつもりなのかとハラハラしながら見守っていると、HOUSE OF TORTURE側は海野選手に手を出さずにリングを後にした。

 ……どういうこと??

 私の脳内はクエスチョンマークで一杯だったが、次の試合へとりあえず意識を向けた。

 大会から一夜明け、選手のバックステージコメントを見て、脳内に残っていたクエスチョンマークの解消を試みた。

 バックステージの海野選手は、最悪の気分だ、これが地獄の幕開けか、こんな東京ドームの舞台で恥かかせやがって、と怒りに震えている。あいつと一騎討ちさせろ、と絞り出すように言葉を残した。

 一方、成田選手は、地獄の底だぞーざまあ見ろー、とへらへら笑っている。

 ……これが底なのかな? という気もするけど、ドームでこの扱いというのは確かに底かもなとは思う。と、少し考えないと腑に落ちないこの時差は何なのか。
 現場で見た瞬間は困惑でいっぱい。どういうことなんだと解き明かしたくても、次の試合が始まって心はそちらへ向かってしまう。

 端的に言うと、成田選手はそのヒール性がわかりにくい、という気がする。
 HOUSE OF TORTUREの他の面々は、マイク、行動、凶器、どれを取ってもぱっと見でわかりやすくて、観客としては反射の速度でブーイングできる。
 成田選手は海野選手にスリーパーホールドを仕掛けていることが殆どだ。
 スリーパーホールドは歴としたプロレス技で、それ自体は反則ではない。
 凶器使用なら、そもそも反則だし、すぐ相手が痛がるといったわかりやすさがある。
 スリーパーホールドだと、相手を気絶寸前まで追い込んで弱らせてさらに攻撃することになるので、時間もかかる。
 成田選手に対して、どのタイミングでブーイングしたらいいのか、少なくとも私は戸惑うのだ。

 それから、バックステージで見せた成田選手の笑い顔。

 ヒールレスラーは、ブーイングを受けて不敵に笑う。居直りだったり(EVIL選手)、シニカルだったり(裕二郎選手、東郷選手、金丸選手)、面白がったり(SHO選手)。
 観る側は、彼らにはブーイングを重ねられる。帰れ、とか、宇和島の恥、とか野次れる。
 成田選手の笑い方は、怖い。
 観る側はブーイングに詰まる(少なくとも私は)。どう野次ったらいいかがわからない。
 こういうタイプのヒールレスラーは他にいるのだろうか……?

おまけの妄想

 入場時にEVIL選手が切り裂いたノアのTシャツ、一体いつ入手したのだろう?

 2日前のノアの有明アリーナ大会で買ったとしたら、誰が物販に並んだのか。ユニット内の新入りである成田選手と考えるのが妥当なところだろう。
 もっと前に通販で入手したのなら、年末年始の輸送事情も考えてかなり早めに注文したことだろう。
 HOUSE OF TORTUREの面々がそんな買い物をしている姿を妄想すると、少しは溜飲が下がる気がする。

 そんなことを思った試合だった。

 さて、次はどんな試合を観られるかな。

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