闘う人を見て泣いた日(2024年9月3日、TAKAYAMANIA EMPIRE 3を観戦して思ったこと)
メインイベント 鈴木みのるvs柴田勝頼ーーこのカードが発表された瞬間に、絶対観たいと思った。
現在AEWに所属している柴田選手の試合を日本で観られる機会を逃したくないな、ましてやその相手が鈴木みのる選手なら眼福間違いなしだろう。観戦動機の発端はそんな思いだった。
事前発表カードのカオスっぷりにワクワクしながら迎えた当日。
第一試合 ハードヒット vs ハードコアからテンションは一気に上がる。鈴木秀樹選手と佐藤光留選手のレスリング攻防から、植木嵩行選手と葛西純選手がパイプ椅子をリングに投げ入れるハードコア展開に。終盤に佐藤選手の頭に葛西純選手が突き立て咲かせた竹串の花はとても美しかった。
第二試合 帝王降臨では、シン・広田さくら 改め シン・髙山善廣選手のありがたくも大爆笑のお姿を拝むことができ、立ち向かう里村明衣子選手のパワーとスピードと技の冴えも堪能できて面白かった。
第三試合 チーム300kg対決は、橋本千紘&優宇のチーム200kg、圧倒的巨体の石川修司選手、全てを破壊する女と称される松本浩代選手という体格の秀でた面々の中で、細身に見える秋山準選手と井上雅央選手がどう闘うか、目が離せない試合になるだろう……と、私は思っていた。
確かに目が離せなかった。ロープを跨ぐのさえやっとといった様子の井上雅央選手から。
後で知ったのだが、井上選手は痛風持ちだという。それでもリングに上がり何とか闘う姿に、会場の声援も大きくなっていった。
セミファイナルはお祭り感溢れるタッグマッチ。丸藤正道選手が男色ディーノ選手に何度となく世界観やお祭り要素の必要性を説かれ、なぜか某有名人のコスプレをした菊タロー選手と浜亮太選手と対峙。試合は丸藤選手による菊タロー選手への衝撃のリップロックで勝利となった。
そしてメインイベント。
柴田勝頼選手の入場だけで会場に柴田コールの熱気が溢れる。
対角の鈴木みのる選手の入場曲が流れるとまた、会場が一体となって「風になれ!」と叫ぶ。
初めて目の当たりにした柴田選手は、鍛え上げられた肉体とはこの肉体のことだと言わんばかりの、余計なものが一切無い筋肉の機能美という印象だ。
そんな柴田選手が、プロレス王鈴木みのる選手とチョップの応酬を繰り広げる。20分以上に渡り、会場のあちこちに舞台を移してのチョップ合戦。これが全く飽きない。打ち合う音に負けじと歓声が上がる。
なかなかリングに戻らない2人にしびれを切らしたか、和田京平レフェリーが場外カウントを取ろうとした時、男と男の勝負に水を差すんじゃねぇ! と鈴木みのる選手が突っぱねた一幕もあった。
リング上に戻ってからは、柴田選手の蹴りや鈴木みのる選手のスリーパーホールドの攻防もあり、試合は柴田選手の勝利で終わった。
(以下、選手の言葉に関してうろ覚えの部分があるため、「」を使っていない箇所が多数あります。ご了承ください。)
試合後に柴田選手が差し出した手を取らず、鈴木みのる選手は詰め寄って行く。一発食らわすのかと思った瞬間、鈴木みのる選手がしっかりと座礼をし、柴田選手も座礼で応じた。
柴田選手は観客、選手、スタッフへの礼を述べたマイクを「以上!」で締め、鈴木みのる選手がマイクを取り全選手を呼び入れて記念撮影の音頭をとる。
最後に「No Fear」で締めると誰もが思っていた。
それを言うのにもっと相応しい奴がいる、と呼び込まれたのは何と高山善廣選手!
選手とスタッフが手際よくリングのロープを外し、車椅子に乗った高山選手がリングに上がる。
高山選手への声援は、この日1番の一体感があったように感じられた。
記念撮影後、選手たちの手で高山選手の車椅子が青コーナーの方へ移る。四方の観客に姿を見せる配慮かと思いきや、リング上は高山選手と鈴木みのる選手と和田京平レフェリーの3人だけになっていた。
鈴木みのるvs高山善廣、時間無制限一本勝負が宣言され、ゴングが鳴った。
かかってこい、立てよ、と煽る鈴木みのる選手も、必死に立ち向かおうとする高山選手も、観客も、いつしか泣いていた。
立てないのか! だったら、お前が立てるようになるまでこの試合はお預けだ。
何が帝王だ。今のプロレス王はこの俺だ。俺が、プロレス王の座で待っているからな。悔しかったら、立ち上がって俺の顔を蹴飛ばしに来い。
鈴木みのる選手の言葉と、それを受け取った高山選手の姿を見て、私も泣いていた。
言葉だけを切り取ったら、荒っぽくて気遣いの欠片もない表現かもしれない。
けれどこの言い方こそが、鈴木みのる選手らしい言葉で、鈴木みのる選手がどれほど高山善廣選手の回復を願っているかが伝わる表現なのだ。
泣くほど私の心に響いたのは、〈人が人を思う気持ち〉の強さに圧倒されたからだという気がする。
自分以外の誰かのためにこんなにも自分の命を燃やせる人がいるのか、と。
自分自身のためにすら自分の命を燃やせていない気がする私は、この日リング上で見た鈴木みのる選手と高山善廣選手に圧倒されながら、羨ましいとも思った。
そんなことを感じた試合だった。
プロレスは、本当に深い。
さて、次はどんな試合を観られるかな。