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母、クリスマスの明暗を走り抜ける。

年末。親にとっては、世界で一番有名な髭のおっさん、こと、サンタクロース氏が立ち上げた「年末大贈物祭」の代行業務が控えている。今年は家とは別に子どもの通う保育園でもその当番がまわってきた。

園が所属する贈物事業支部のシステムは旧来製で、紙のカタログから選び、注文は手書きのファックス。「ピー、カタカタカタ」と注文書を届けて始めて、在庫の有無も確認できるのだ。

クリスマス係となったわたしとAさんは、夜な夜なカタログ数冊を回覧してはよさそうなおもちゃを写真にとってLINEに流し共有した。これは喜びそう、すぐ飽きそう、捨てるのが面倒などと、自分やAさんや他の家庭のおもちゃに対する千差万別の価値観をどうにかこうにかやりくりしながら、候補を絞った。そうしてようやく決めた一品を先生に伝えたところ、翌日返ってきた答えは
「在庫がなかったので選び直しです!」
次いで
「このカタログのXX(=園でも子どもに人気のおもちゃ)にしちゃえば、全体で送料もかからないです!」
「早めに返信ください!」

気落ちはするも、なるほどXXでもいいかもしれないと思った矢先、
これまであまり強い主張をしてこなかったAさんから
「んー。XXにするとなんか結局先生だけで決めた形になりますよね…。これまで時間かけてきたのが虚しいというか…。XXは園にもあるし。」
とのひと言。相手の発言はたいてい「一理ある」と思ってしまうわたしは頭を抱えた。先の見えないやりとりを交わしながら、思わず
「おもちゃとは?」「クリスマスプレゼントとは?」「サンタとは?」
という哲学的な問いを持ち出しそうになるのを必死に自制し、結局はAさんの希望を立てて、XXではなく自分達で決めた第二候補のプレゼントを優先したい旨、発注担当の先生にメモを残すことにした。

その晩、別の先生から発注したおもちゃのリストがLINEで流れてきた。
うちのクラスのリストには、先生方推薦のXXが。
時間的なタイミングからして、どうやらメモは見られていないようだった。

そもそもわたしもXXでいいかと思っていたから、結果に大きな不満はない。ただ、丁寧に積み上げたものを不意にされた虚しさに自分でも驚くほど、肩を落とした。いや、肩だけでは済まず、全身が地面に埋まってしまいそうだった。なんならそのままダークサイドまで行って、黒仮面被ってシューシュー唱えてしまいそうだった。

先生たちも時期が迫る中、発注に焦っていたのはわかる。気を回して提案してくれたのもわかる。Aさんの、せっかく選んだものを子どもに届けたい気持ちもわかる。が、自分の中に去来するモヤモヤのやり場だけがわからない。近年稀に見る後味の悪さを抱えて布団に入ったが、こんなに心掻き乱される原因が保育園のプレゼント選びだということに気づいて、不気味に口角が上がった。怖い顔だった違いない。夢の中には、まだ見ぬ、サンタクロースが笑顔で出てきたとかこないとか。

翌朝、お気に入りの、ラジオ番組と清水ミチコさんのモノマネを見てどうにか暗黒面落ちは回避した。どうすればよかったのか、答えは出ないが、ひとまず、贈物祭の代行業務を終え、年に一度の明るいファンタジーを守ることはできた。

年末。走るのは先生だけではないのである。母も、明暗のきわきわを走ったのである。
ということだけは、覚えて帰ってください。

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