
Reading Record #8 Nov. 2024
2024年11月に読んだ、6作品を紹介します。
*注意していますが、ネタバレも含みます。
63.精霊の守り人
著:上橋菜穂子
出版年:2007
出版社:新潮文庫
バルサはひょんなことから、精霊の命を宿しているという、新ヨゴ王国の皇子チャグムの用心棒を任されることになりました。初めはなかなかかみ合わない二人でしたが、徐々に信頼が芽生えていき、互いにとってなくてはならない存在になっていきます。しかし、猶予はありませんでした。精霊の命を宿すチャグムの身には、危険が迫っていたのです。隠された歴史、そして事実とは。そして、二人と王国の運命とは。
後から気づいたことですが、小学生の時に夢中になっていた『獣の奏者』シリーズの著者だったようです。確かに、登場人物の特徴や、世界の作りこみ方が似ており、懐かしく思い出しました。新しいシリーズを発掘でき、とても嬉しいです。大切に読み進めていきたいと思います。
64.天地明察 上・下
著:冲方丁
出版年:2012
出版社:角川文庫
安井算哲(渋川晴海)は、囲碁の名手です。それと同時に、星の観測と算術に強い興味を寄せており、その実力も並々ならぬものです。しかし彼の生きる江戸時代、800年間も使用されてきた暦のずれがいよいよ見逃せないものになってきていました。資質が見込まれ、新たな暦を作り改暦の儀を行うという使命を受けた彼は、一生をかける大事業が始まります。
Kさんに借りて読みました。日本史を勉強していたこともあり、すぐに世界観に引き込まれ、とりこになりました。
この物語は、安井算哲の人生を追っていく形で進むため、当然、周りの人が次々に亡くなります。同じように連れ添っている気分で読むため、悲しくなることもしばしばでした。しかしそのたびに息がかかった遺言や生き残っているものの支えが、心を温めてくれました。特に、安井算哲とえんの関係性が大好きでした。こちらが思わずにやけてしまうほど、甘いのです。
65.群衆心理
著:ギュスター・ヴ・ル・ボン
訳:櫻井成夫
出版年:1993
出版社:講談社学術文庫
タイトルの通り、群衆がいかにして他の個人を扇動し、指導者に扇動されるのかが、フランス革命を主な具体例として説明されています。
Kさんに借りて読みました。文章が比較的に堅苦しいものであり、テーマも明るくないため、読んでいて難しく、初めは何を伝えたいのかが分かりませんでした。しかし読んでいくうちに、理解ができる説明が増えていき、徐々に全体像を把握することができました。最終的に、講義のレポートで内容の一部を引用できるほどには自分のものにすることができ、良かったです。
思想が強めの作品ともいえます。以下の文章を読んで面白いと思った方は、ぜひ読んでみてください。
「すなわち、群衆中の個人は、単に大勢の中にいるという事実だけで、一種の不可抗的な力を感ずるようになる。これがために、本能のままに任せることがある。単独のときならば、当然それを抑えたでもあろうに。その群集に名目がなく、従って責任のないときには、常に個人を抑制する責任観念が完全に消滅してしまうだけに、いっそう容易に本能に負けてしまうのである。」(p. 33)
66.生の短さについて 他二篇
著:セネカ
訳:大西英文
出版年:2010
出版社:岩波文庫
「生の短さについて」「心の平静について」「幸福な生について」の三篇が収録されている作品です。
よく考えてみれば、この作品が初めて読んだ哲学書なのです。きちんと理解するのは難しく、ところどころは流して読んでしまったのですが、引っかかった部分をとってみても、勉強になったと感じています。
以下の文章が、セネカが最も言いたかったであろうことであり、私の心に最も響いたことです。時間の使い方に気を付けていきたい、と口で言うのは簡単ですが、行動に移すのは難しいです。これを書いているのは2024年12月。2025年からはより一日一日を大切に過ごせるよう腐心します。
「われわれにはわずかな時間しかないのではなく、多くの時間を浪費するのである。人間の生は、全体を立派に活用すれば、十分に長く、偉大なことを完遂できるよう潤沢に与えられている。」
「われわれの享ける生が短いのではなく、われわれ自身が生を短くするのであり、われわれは生に欠乏しているのではなく、生を蕩尽する、それが真相なのだ。」
67.生きるぼくら
著:原田マハ
出版年:2015
出版社:徳間文庫
主人公の麻生人生は、学校でのいじめにより、二十四歳までひきこもりを続けていました。しかしある日、面倒を見てくれていた母が、梅干しのおにぎりと年賀状を残して、家を出て行ってしまいました。助けを求めに向かった蓼科にいたのは、認知症のマーサばあちゃんと、血のつながっていない親戚の女の子。人生の生活は、どうなっていくのか。
様々な社会問題を背景に置きつつも、稲作と食が大きなテーマの一であり、農業に興味がある私にとって、読んでいてワクワクする作品でした。農業を通して広がる人の輪があたたかくて、こんな生活をしてみたいとも思いました。人生、女の子、そして都会からやってきた少年の成長物語でもあり、気持ちが良くなります。
68.ゴールデンスランバー
著:伊坂幸太郎
出版年:2007
出版社:新潮社
首相暗殺の濡れ衣を着せられた青柳雅春は、久しぶりに再会した大学時代の友人から受けた、逃げろという忠告、そして習慣と信頼を頼りに、逃亡生活を始めることになります。しかし、数年前の殺人事件をきっかけとして国が導入した監視システムやマスメディアによる扇動によって、逃亡生活は困難を極めます。果たして彼は、冤罪を晴らし、再び社会で堂々と生活することができるのか。
ハラハラドキドキのドラマチックな逃走劇です。彼を知る誰もが彼のことを信じているのに、国家権力によってそれが潰され、彼が犯人だという都合の良い証拠ばかりが取り上げられる、という打開策のない圧迫された社会は、現代にも通用するのかもしれません。
印象的だったことは、逃亡生活の語りの合間に、彼の若いころのエピソードの語りが挟まり、それが逃亡生活の語りを引き立てていることでした。彼と警官が留守の部屋で共に過ごす場面が好きでした。
まとめ
11月は以上の6作品を読みました。
外語祭があり、あまり読書に時間を使うことができませんでした。内容が堅いものが多く、スムーズに読み進められなかったこともあり、冊数はそこまで多くありません。しかし、内容的には充実していました。
今月は、借りた本を多く読みました。自分だと手に取らない本を読むことができることは、とても楽しく幸せなことです。視野を広めるためにも、感想を共有するためにも、良いことだと思います。
今月のベストブックは、『天地明察 上・下』『群衆心理』の2冊です。
それでは、またね。
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