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【日記】2023/11/02自転車と温かいスープ

起きたときの気分は悪くなかった。

なんだかすっきりした気持ち。

整体のおかげで肩が軽くなったからだろうか。


いつも通りごはんを食べて、

気分が良かったので書き物の続きをしていた。


授業の1時間くらい前になったので、自転車を借りに出た。

デビットカード使えない問題は別のカードで解決済み。

心は軽やかだ。

家で自転車を予約して、ステーションに向かう。

速やかに自転車に乗って、予定通り大学に着けるだろうと思った。

それが間違いだった。

スタンドの上げ方が分からない。

サドルの高さ調節の仕方も分からない。

わざわざ調べなければ自転車に乗れない。

かなりイライラして、自分の腕を殴った。

しかし思い返してみれば、これが私の悪い癖なのだ。

はじめて借りるものがスムーズに借りられる訳もない。

自転車に乗るのも久しぶりだ。

それを考慮できず、全て上手くいく想定で予定を立ててしまう。

だから気持ちが荒れる。

まあ、よくやる間違いを今日もやったわけである。


どうにかこうにか準備を整え、よろよろと走り出した。

電車の閉鎖感や駅の人口密度を思うと、

やはり道は広い。

昼間だったので、せいぜいがひとり二人とすれ違う程度だ。

至近距離に踏み込まれることを怖れなくていいから、体も緩んでいった。

頬に風を感じ、

息を深く吸い込んで空気のにおいを味わう。

息が楽にできる。

それが嬉しい。

湿っていて混沌とした、息苦しい空気をできるだけ吸わないように、

人混みでは浅く息をするしかなかったから。


余裕ができると、自然と周りもよく見える。

公園、アンティーク家具のお店、美味しそうなごはん屋さん…

わくわくした。

知らない道を走るのは楽しいなあ、と思えた。

そんなこととっくに知っていたはずなのに。

忘れていたものを、「今度はなくさないでね」とまた手渡してもらったような気がする。

走っているうちに道のつながりが分かるのも面白い。

歩いたことのある道、電車の路線や駅がつながり、全体像が見えてくる。

ゲームでマップを埋めているような感覚だ。

普段はアプリに頼っていて埋没している能力が発掘されている気がした。

可能であれば、アプリで能力を外注するより脳内で賄ったほうが速いし楽だ。

しかし頭で全て覚えるのには時間がかかるし、知らないところのことはどうしても分からない。

だから今日みたいに、補助輪として使えたらいい。


そんなことを思って走っていた。

最初は上機嫌で歌っていたが、

さすがに最後の方は疲れてきて無言だった。

返却しようとまっすぐ向かっていたステーションは埋まっていた。

少しがっかりする。

返却予約をして、別のステーションに返しに行った。



自転車を停めて、アプリを操作して返却した。

道を間違えて引き返したりしながら、1時間半以上かかった。

全然電池が減っていなかったのでなぜだろうと思ったが、すぐに電動アシストを使えていなかったことに気づいた。

それであんなに自転車が重く、坂道で疲れたのか…

機能を使わず、重みだけを引きずっていたのである。

どっと疲れを感じた。


けれども短時間でも閉鎖空間で精神的に疲弊するよりも、

長時間外で運動して体が疲れる方がよっぽど良いな、と思った。

実際電車で来たときと違って、今日は大学くらいの人通りでは体がこわばらなかった。

きっと移動中リラックスしていられたおかげだろう。


ちなみに授業についたのは終わる10分前だった。

初めての自転車通学で、しかもGoogleの示す曲がりくねったルートで、時間通り着くわけもなかったのである。

私の悪い癖だ。(再び)


駄目元で教室を覗き込んだら学生は一人しかいなかった。

少なすぎる。

思わず笑ってしまった。

元々人数の少ない授業ではあったが、普段は3、4人はいたはずだ。

そんな教室に私がおそるおそる入室したため、先生もその学生さんもこちらを向いた。

そこで、今日初めて自転車で来て、道に迷って大遅刻したと焦って説明した。

先生は笑いながら、

「面白いからいいや」

と言った。

どこから来たの、と言われたので場所を言った。

すると、そこならこことここの通りを通ったらすぐじゃない?

と言われた。

そういえば先生はここらへんの人だった。

土地勘ないので分からないです…

と答えると、

出身はどこ?

と訊かれたので、地元の名前を答えた。

すると、来ていた唯一の学生さんが近くの地域出身の人だったので、雑談が始まった。

最後に、今日どのあたりをやったのか聞いて帰った。

建物を出たあと、私は何をしに来たんだ…?という状態だなあこれは、と思えてなんだ可笑しかった。


図書館で自習して、夜が更けてきたので再び自転車を借りに出た。

外をすれ違うひとの顔が直前まで見えなくて、まさに誰そ彼時だな、と思った。

おそらく大学周辺が暗いだけなのだけど。

地元と比較して、やっぱり大都市は明るいなあと思う。

しんどいときは眩しいし、星が見えないのはさみしいと感じてしまう。

生まれ育った環境はやはり染みついているものだなあ。


帰りは電動アシストを使うことができた。

ライトをつける際に触ったパネルが、電動アシストの操作用も兼ねていたのである。

行きはライトを使わなかったので気づかなかったのだなあと思った。

走り出したときは、こんなに軽くていいのかとびびり散らかした。

人には、いや私には過ぎたる力なのでは…?などと思った。

あとで分かったことだが、実際電動アシストの導入当初は事故が多発したらしい。

軽く踏むだけですごく速く走れるもんな…

走り続けてその軽さに慣れてきても、

こぎ出しの際の押されるような感覚には慣れなかった。

ほんとに「それいけー!」って何かに押されてるみたいなんだよなあ…


先生から聞いたルートを使う。

大きい通りをほぼ一直線。

どこで曲がるか気にしなくて良いので、

気楽に走れた。

ただ、大きい道路なので人も車も多かった。

車が怖くてずっと歩道を走っていた。

通行人や他の自転車を避けるのには神経を傾けたし、

脇道もいちいち止まって確認した。

もう車とぶつかりたくはないのだ。

あれは本当に痛かった。

初めて手術を受けたし、

私の顔の内部の骨はまだ折れているらしい。

内部すぎて直せないのだそうな。

直した部位にも、直した跡が残っている。

プレートを入れて骨を継いだので、その部分の筋肉が少しずり落ちて段差をなしているのだ。

右手首の骨折が綺麗に治っているのだけが救いである。

そんなことを思いながら、

二度と車にぶつからないことを肝に銘じて一時停止走行を続けた。


まっすぐまっすぐ走ってゆくと、

次第に見慣れた景色が現れてきた。

ここはこの駅のあたりだろうか、ということが分かってくる。

そのまま走って、自宅近くのステーションに停める。


お世話になったのだから充電をしようと思って、わくわくとした気持ちで充電ポートのあるところを選んだ。

しかしプラグを入れるサイドポケットが見当たらない。

よく見てもない。

比較のために眺め倒した他の自転車にも見当たらない。

これは充電ポートでは充電できない自転車ってこと…?と疑問を抱えながら、

とりあえずプラグをカゴに入れて立ち去った。

充電できなくてごめんな。


ちょっぴり残念な気持ちで、てくてく歩いて家に帰った。

ずいぶん遅くなってしまったのでお腹が空いていて、帰宅してすぐ夜ご飯を作った。

昨日、地産マルシェなる場所でお安く買えたセロリと玉ねぎを水に浸けて、洋風だしを作っておいた。

それをスープにした。

自炊なんて久しぶりだ。

人参を切るとんとんという音が心地いい。

野菜を切るだけとはいえど、疲れているときはとても面倒くさく感じた。

一人暮らしゆえ台所が狭く散らかりがちで、料理をしようと思うとまずは台所を片付けるところから始まるのだ。

昨日牛乳パックを片しておいたので、今日はスムーズにまな板が出せた。

やはり片付けは大事だ。


IHクッキングヒーターの電源を入れて、鍋を温める。

順次具材を切って投入して煮ていく。

本当は煮えにくいものから入れたほうが良いのだけれど、今回は適当だ。

全部入れてから5分くらい煮る。

時間も適当だ。

塩胡椒を振って、完成ということにする。

セロリのいい匂いがする。

以前は味が薄く感じられてコンソメの素を入れていたが、今日はそのままで十分美味しく感じられた。

自分でごはんを作ったことが自分で誇らしい。

そんなほくほくとした気持ちで、手を合わせ、「旨し糧!」などと呟いてスプーンを手に取った。

スープの中に泳ぐ具材をすくい、口に入れる。

温かい。

やはり温かい汁物はよいなあ。

体が温まるし、水分も取れて満足感も大きい。

温めておいたパックご飯も投入して、おじやにして食べた。

量は少なかったが、とても満足だった。

今日は精神的苦痛が少なかったからだろうか、

運動のおかげだろうか、

自分で作ったためだろうか、

それとも温かい汁物を食べたからだろうか。

全部かもしれない。

分からないけど、満足できたことが嬉しかった。

食事が美味しく感じられないからこそ過食してしまった頃から変われている気がする。

明日も何か作ろうかな。






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