#4 縄が好きになった訳

これはフィクションなのかノンフィクションなのか、そんな前振りで書いてみます・・・。


 ねえ、ビンタして!
 へぇ?

 間抜けな声を出して返事をしたこと今でも思い出す。

 ビンタって、・・・こう?
 そうじゃなくて、本気で!

 うつむき加減で、すこし怒ったような声で「ビンタして」と言った彼女、いま思えば相当の勇気を振り絞ったのだろう。
 ほとんどの女性が、旦那や彼氏には自分の性癖を隠しているという。それを知ったのはずいぶん後のことだ。

 結局、ビンタはうまくできず、彼女も諦めたようにそっぽを向いてしまった。

 ビンタされるのが好きなの?
 ・・・うん。

 その理由を知りたかった。しかし告白の衝撃が大きすぎた。聞くと関係が壊れそうな気がして、尋ねる勇気がなかった。

 けれども、ひとつだけ分かった。彼女の性癖は「M」だと。

 それから、いろいろと情報を集めた。鞭と蝋燭しか知らなかったSMの世界、実はいろいろな種類があることを知った。アブノーマルならフェチズムでも、つまりノーマル以外の性癖は広義のSMに含まれるということも理解した。

 鞭も試したが、四つん這いにさせたお尻に上手に当たらない。鞭の振り下ろし方を知らないのだから当然だ。空振りすると、間抜けな空気に思わず吹き出して笑ってしまう。だから鞭は諦めた。

 ビンタは結局できなかった。

 そんな中、ひとつだけ好きになったプレイがある。それが縄だ。

 アダルトショップで赤い綿ロープを買ってみる。何mだか覚えていない。当然縛り方などわからない。とにかくやみくもに本能のまま縛った。
 縛り方はめちゃくちゃ、それでも、綿ロープが肌を這う感覚がゾクゾクする、と彼女は言った。
それからはもう、ひたすら彼女が気持ち良いという感覚だけを頼りに縛った。

 それはサディストとしての縛りではない。子供のころ、好きな女の子にちょっかいを出してイジメてしまうのと同じだ。
 少しばかりの征服感と、彼女が許す許容範囲ギリギリを責める背徳感。彼女の反応が楽しいんだ・・・。

 本気のビンタは結局できなかった。
 そしてその彼女とは、別れてしまった。

 でも自分には、あの綿ロープの手触りと、彼女の恍惚とした表情の思い出が残った。

 試しにSM雑誌やビデオを見てみる。しかし、吊られている女性、そして苦悶の表情を見せている女性には、どうしても感情が動かされなかった。

 自分はSMの世界のには行けないのか・・・。
 
 世間からはマイノリティと言われるSMの世界。でもそんなマイノリティな世界でも、自分は居場所はないんだと思った。

 しばらく時が流れる。

 そしてあるとき、雪村春樹先生の映像をみた。そこには、厳しい責めとは違う、エロい雰囲気をまとった関西弁のおっちゃんがいた。

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