昔の推理小説の話
エラリー・クイーンを知っていますか。
1930年代くらいのアメリカで売れた推理小説作家で、厳密なプロットと徹底した論理的な推理が特徴だ。とても面白いのに日本ではミステリ好き以外の間だとそんなに知られていないのが残念。
作者(という設定)であり主人公であり探偵役であるエラリー・クイーンは一言で言うと「文系の天才」みたいなキャラで、創元推理文庫の表紙の美青年のイラストが全く誇張ではないくらいの美形である。
代表作である国名シリーズでは特に大都会ニューヨークを舞台に群衆を巻き込んだ派手な劇場型殺人が起きることが多い。
こんな特徴を踏まえると、エラリー・クイーンはシャーロック・ホームズに劣らないレベルで映像化に向いた作品だと思う。
もちろんシリーズの醍醐味であるエラリーのこれでもかというくらいに理詰めの長推理は芝居にするとくどくなってしまうかもしれないが、それでもエラリーのキャラ立ち具合や華やかな舞台設定は視覚的に大きな魅力である。
ところで海外ミステリの映像化と言えば日本ではアガサ・クリスティが有名だが、クリスティの作品はむしろ映像化には不向きだと思う。
初期の頃こそプロットの奇想天外さで推理小説の歴史にいくつもの爪痕を残しているが、クリスティの魅力はなんと言っても作者の深い人間観察の成果が現れる文章である。
人間が誰しもうっすら感じたことがあり、でも自分では認識も言語化もできていないような感情を、彼女は何気ない文章にさらっと紛れ込ませて読者に投げてくる。自分でも知らなかったような感覚を突然引きずり出され、私は「怖い」と感じる。
どの作品だったかは覚えていないが、早川ミステリ文庫のクリスティ作品のあとがきに「クリスティは怖い」と書いてあるのを読んだことがあるような気がする。
話が逸れたが、エラリー・クイーンの映像化は今からでも現代の日本でウケると思うし、なんならグッズ化みたいな方向性の商業的な可能性も大いに期待できるだろう。
劇場版『ローマ帽子の秘密』待ってます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?