マヌケのおはな

 ひとにはみえない おはなに かこまれたばしょに ようせいのくにが ありました。
 みんな すてきな おはなで ふくをかざって おしゃれを しています。
 なかでも ようせいの おひめさまは たいそう うつくしく、きているドレスは いろとりどりの おはなで かざられていました。
 すべての おんなのこの あこがれの まとです。
 はんたいに みんなから きらわれている おとこのこが いました。
 かれた ごわごわの くさであんだ みっともないふくに いちりんだけ おはなをさして、かおには ヘンテコなかめんを つけています。
 いつも うごきがおそくて、みんなから『マヌケ』と よばれていました。


 きょうも のそのそ マヌケがあるいていると、みちばたで ないているひとが います。
「どうしたのぉ?」
 マヌケは しゃべりかたもマヌケで ゆっくりです。
「おようふくの おはなが とんでいって しまったの。」
 みてみると たしかに ひとつだけ、おはなの ないところが ありました。
「じゃあ、えっとぉ、ぼくの おはなを あげるよぉ。」
 マヌケは、たった いちりんのおはなを ないているひとに あげてしまったのです。
 それをみていた ほかの ようせいたちは わらいました。
「おぉい、マヌケ、やっぱりおまえは マヌケだなぁ!」
「たった いちりんのはなを ひとにあげるなんて!」
 そばにいた おひめさまも じぶんのドレスを みおろしました。
 いろとりどりの おはなは どれもきれいで、ぜったいに だれにも わたしたくありません。
 それなのに どうしてマヌケは ひとに あげてしまったのでしょう?


 つぎのひ ふしぎなことに マヌケの、ごわごわで みっともないふくに また いちりん きれいな おはなが さいていました。
 きのうより もっときれいな おはなです。
 あまりに きれいなので こんどこそ たいせつに するだろう、と みんなが おもいました。
 ところが マヌケは おかしなことに、また ないているひとに あげてしまったのです。
 つぎのひも また つぎのひも マヌケは ないている ひとがいると まよわず おはなを あげました。
 そのたびに おはなは どんどんうつくしく きれいになるのですが マヌケは まったく きにしません。
 だれかが こまっていると すぐに わたしてしまうのです。



 さて、いじわるなひとというのは どこにでもいるもので、ようせいの くににも もちろん いました。
 マヌケの うわさをきいて マヌケの きれいで すてきなおはなを むしりとるために わざと じぶんのおはなを ちぎります。
 マヌケは マヌケですから ウソだときづかずに おはなを わたしてしまいました。
 それをみていた みんなが マヌケをバカだと わらいました。
 おひめさまも マヌケのことを わらいます。
 すると、どうでしょう。
 いじわるなひとの おはなは もちろん、おひめさまや みていたみんなの おはなも みるみるうちに すべて かれて しまいました。
 くさくて みじめで みっともない、マヌケより もっとマヌケなふくに なってしまったのです。
「ああ、いやよ こんなふく!」
 おひめさまは なきました。
 けれどもう マヌケのふくに おはなは いちりんも ありません。
 そこでマヌケは いつも つけている ヘンテコなかめんを おひめさまに あげることにしました。
「なかないで、おひめさま。えっとぉ、ぼくの かめんを さしあげますから。」
 すると、ああ、なんということでしょう!
 かめんの なかから とてもうつくしい おとこのこが でてきたのです。
 みんなが ポカンとしていると とおくから たくさんのひとが やってきました。
「おーい、おーい!」
 すべて マヌケに おはなをもらった ひとたちです。
「あのときは ありがとう。おれいに おはなを もってきたよ。」
 そういって あかや、しろや、きいろ、いろとりどりの みたこともない すばらしい おはなを マヌケにくれました。
 あまりにおおくて じめんが みえなくなったほどです。
「まぁ、すてき! こんなに すてきな おはな、みたことないわ!」
 おひめさまの ことばをきいたマヌケは 「どうぞぉ」とおひめさまに おはなを あげました。
 おひめさまだけでは ありません。
 マヌケをわらったひとにも いじわるをしたひとにも みんなに おはなをあげました。
 おひめさまは どうしてそんなことが できるのか、ふしぎで ふしぎで しかたありません。
 そこで ゆうきをだして きいてみました。
「ねぇ、どうして いつも おはなをあげるの?」
「だって あげると、えがおに なるでしょう?」
 これをきいて みんな えがおに なりました。
 それからは、だれも マヌケをバカにしませんでした。


おしまい

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