梅雨の詩 三編
空洞
もうどうしたってこの手に戻らない砂つぶを
かき集めたってどうしようもなくて
そのうち砂つぶがそこにあったのも忘れて
手から払い落としきれなかったそれが後悔だった
歩き続けたところで何があるだろう
この胸の空洞にぴったりはまるそれを
与えてくれる人がいるかもしれない。けれど
この空洞に元あったそれをさらっていった人は
あなたしかいないのに
あなたしかいなかったのに
あなたがいなかったせいで
あなたの代わりを見つけてしまった
梅雨
小さい頃の黄色い長靴は
履いているだけで何処へでも行けて
まるで地球が小さくなったみたいに
この町全部が自分のものだった
少し背が伸びた頃の青い傘は
お下がりの古い傘だったけれど壊れなくて
学校に忘れて帰ったら不安で眠れないぐらいに
私の空そのものだった
大人になった私は
窓の外にばたばたと雨粒を見つけると
ひどく嫌な気分になる代わりに
よく眠れるのだった
想っていたかった
会いたいと言えば会ってくれましたか
寂しいと言えば受け止めてくれましたか
今でもあなたを夢に見ています
眠りの中であなたを探しています
この指が、脳が
あなたを求めているのに
どうして
どうして私はこんなに臆病になってしまったんでしょう
あなたも会いたいと思ってくれていますか
あなたも寂しがってくれていますか
私につけたささくれみたいな傷と
おんなじものをあなたも持っていますか
連絡が来ればいいのにと思ってくれていますか
あなたも同じように待ってくれていますか
こわくて
こわくて私はあなたを待つことをやめられない
さよならを言えればよかったんですか
もう二度と会わない約束をすればよかったんですか
こんなに苦しくなるぐらいなら
あなたになんか出会わなければよかった
そんな陳腐なことを思うぐらいに
そうか
私はあなたのことが好きだったんですね
会いたいと言えば会ってくれて
寂しいと言えば慰めてくれて
夢も見ないぐらい深く
あなたの隣で眠ることができて
もうやめてよ
薬を飲んで忘れよう
さよなら
さよなら
連絡先も消せないのに