昨日の本棚・序説

辛い出来事も、楽しかった出来事も同じように書いておこうと思った。

辛い出来事はつい思い出してしまうし、楽しい出来事はすぐ忘れてしまう。人間なんてそんなものだ。

記憶にはそういった、覚えておける期間みたいなものが決まっているような気がする。だが、書いておけばどれも同じぐらい覚えておけるのではないかと思ったし、いつでも読み返せるなら覚えておく必要が無くなるのではないかとも思った。

だから昨日を本棚にしまっておこう。

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本当はこういうものを書くつもりはなかった、というと嫌々書いているように思われるかもしれないが、そうではない。ずっと書きたかったけど後悔するのが目に見えていたというのがより正確だ。それでも書こうと思ったのは、単に精神にガタが来て、何かやらないと気が済まなくなったからだ。

今noteで公開している作品は、物は試しと書いてみた心境小説1本となっている。志賀直哉に影響を受けて書いたものだが、これがなかなか楽しかった。これから書くような日記も心境小説や私小説のような作品に仕立て上げられれば良かったのだが、生憎とそんな余裕がない。

作品のモチーフにできるような出来事は、自分の中である程度着地点が見つかっていて、すでに解決している問題が多い。というか、私の場合はそれが全てだ。自分の中で解決していない問題をモチーフにしても、なんだか纏まらないし、面白くない作品が出来上がる。

けれど問題の解決に文章化はいい手段だと思ので、まぁ、モチーフにもならないくだらない昨日を書いていこうと思い、マガジンを作った。

前説がめちゃくちゃ長くなってしまったので反省している。

というか、もはや本題に入る気力もなくなってきているが、書こうと思ったものぐらいは書こうと思う。

今は駅のベンチに座っている。もう常連のようになってしまった。
隣には知らないおばちゃんや、待ち合わせ中の高校生なんかが座っている。そんな中、スーツ姿で、ものっすごい猫背で、スマホ両手持ちで何かを打ち込んでる女は、一言で言えば異常だろう。

今日も会社に行けなかったと、上司に電話して、家に帰るまであとどれぐらいだろう。ものすごい吐き気で、猫背を正せもしない。このままだと電話もできないぐらい吐きそうだ。組んでいる脚が痺れてきた。もう何もかもダメだ。

こんな日が、三週間ぐらい続いている。奇跡的に行けた日もあった。本来、医者には二週間の休養を命じられていた。だが会社はそれをよくわかってくれなかったみたいで、毎日行くだけ行ってみて、ダメだったら電話してくれ、という事になった。ふざけんな。こちとらJRに乗るってだけで、もしかしたら吐くんじゃないかって怖くなってるんだぞ。
まだ実際に吐いたことはない。いつかやりそうで怖いし、やってしまえばもう二度とJRには乗れないと思う。これが病状四つのうち二つ、乗物恐怖症と嘔吐恐怖症だ。

マジで吐きそう。薬は最近ちゃんと飲むようになったけれど、何せ大量の粉薬なもんだからまずいし、水もその分飲まないといけなくて、毎日飲むのがつらい。その上吐き気も止まらなければ、病状が良くなるわけでもないんだったら、毎日の苦労と馬鹿にならない薬代が浮かばれない。
CD何枚買えたと思ってるんだ。

今週はうまくいっていた。二週間の休養、と言われてから二週間が一応経って(あんまり身体的にも精神的にも休めなかったけど)やってやろうじゃねぇか、と思ったら体が動いた。
朝もしんどいけど飯と薬を流し込めたし、駅に向かいながら、吐き気でしゃがみ込むようなこともなかった。JRを降りて階段の人波に揉まれても平気だった。普通の人間になれた、と思った。矢先にこれだ。死にたいよもう。

昨日起きたら体が動かなかった。スマホに手を伸ばすことも出来なかった。動けこのやろう、今何時なんだよ、会社に行きたいんだよ、このやろう!と思っても動かないものは動かない。せめて薬ぐらい飲まないと、と思ったけれどやっぱり動かない。これがメインの病気である、自律神経失調症だ。

体が動かないなんてただの甘えだと私も思っていた。でも、これが病気ってものなんだと知った。だからといってどうにもならないが。周りに説明しようにも、体が動かない理由が分からなかったから、なんでか分からないけど動けなくて眠気に襲われて昼まで寝てました、としか言い様がなかった。ただのサボり魔だろ、この言い分。けれどこれが事実の全てだ。

体が動かなくなり、緊張状態と眠気という相反するものが脳の中でバトっていて、肩は凝って、胃の辺りの違和感が酷くなって、横になれないほどの吐き気が来てばさっと起き上がるけれど、それ以上何も動けなくて、もっかい寝て、起きて、繰り返しているうちに限界が来て眠りにつく。それも浅いからすぐ起きる。これが病状その四、睡眠障害だ。
焦りだけが先行して、体はどうもついて来てくれない。

お前ら、一回体験してみやがれ。体が思う通りに動かないって辛いんだぞ。しかもそれを怠けと見なされるのも辛いんだぞ。もう何もかも辛いわ馬鹿野郎。

動かないとかふざけんなよ、今週はうまくいってたんだぞ、殺すぞ、と思った。まずはその思い通りに動かない腕から滅多刺しにしてやる。そのうちに眠り込んで、近くの空き地の工事音で目が覚めた。昼だった。もう何もかも辞めてしまいたかった。まずは人間からやめようと思った。

いわゆる無断欠勤だ。しかも三回目。仏の顔もなんとやら、もう上司も見放してるんじゃないかと思う。いっそクビにしてくれと思わないでもない。
そして今日に至る。隣に座っていた色々な人はもういない。社会が回り始める時間だ。電話をしないといけない。何が何でも電話だ。

ダメでした、と言えば、わかったと返ってくる。ダメでした。何もかもダメでした。JRにも乗れませんでした。弁当を作る余裕もありませんでした。生きていてごめんなさい。生まれたことがダメでした。
ダメでした。その一言を言うたびに泣きそうになる。吐き気も止まらない。何が解決したわけでもない。ダメだという事実だけが背中にのしかかる。

これからどうしよう。高卒で就職した友人の中には、アルバイトのようなことで月給を貰っている人もいる。最初は、会社員にもならずに何やってるんだと思っていたけれど、正直そっちの方が良かったのかもしれないと最近思い始めた。プラス思考で言い換えれば、視野が広がった。

いっそ会社を辞めて、時間帯が夜メインの仕事を探そうかとも思う。けれど研修先の先生が言った、この程度でドロップアウトする様な奴は何やってもダメ、というのもごもっともだと思う。結局行き場がなくて、こうなっている。

この話にオチはない。最初に言った通り、どうしようもないから書くしかないのだ。

もしかしたら明日は行けるかもしれない。駅で待ち合わせている友達が手を引いてくれて、研修先に行くことが出来て、会社の受付のおばさんが頑張ったね、と言ってくれるかもしれない。

死ねないから生きるしかない。生きるなら明日に期待するしかない。
明日こそ。

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これは昨日たちの本棚。記憶ともいえるし、記録でも正しい。

忘れないように、そして思い出さなくてもいいようにしまっておこう。

無理な金額は自重してね。貰ったお金は多分お昼ご飯になります。