秋の詩 二編
憧憬
途方もない怖れのなかで
カーテンの向こうに君の影を見た
たちまち、僕は脱力してしまって
怖れそのものに喰われたのだ
君は僕を見ていない
だから 君の怖れのなかに僕はいない
だけどもし君が僕をよく見ていたとしても
やはり 君の怖れのなかに僕はいない
谷底の君よ、落ちるのが怖いか
崖上の君よ、落ちるのが怖いか
僕たちは互いが怖ろしくてたまらないが
自分自身の影に怖れることはない
カーテンの向こうに君がいたのか
今となってはそれだけが疑問で
もし、いなかったとすれば
僕はほんとうに立ちつくすばかりである
<2>
君は何度でも僕を呼んできて
こうしてペンを握らせているが
描いた世界の中に僕はいないし
もちろん、君もいない
僕がわざと置いた石ころにつまづいて
転ける、それでも君は手を放さない
僕の手を
犯人の手をいつまでも放してはくれない
何度でも失って、何度でも呼び戻す
失ったままにはたえられないが
得たままにもたえられないのだ
それでも、君がいないことには始まらないのだ
こうしてペンを握ったのは
はたして私の意思だったか
かつて私が描いたもののなかで私を喜ばせたものがあれば
それは生まれるべきではなかったとさえ、思うのだ
指
破れたみづみづしい薔薇の花弁が
したたり落ちて 白と黒の音達に不和を齎す
その華のさき 細く美しく刺のある枝に
華よりも惹かれたのはなぜだったか
その誰も寄せ付けない美しさ
一人立ちつくす強さ
美しさについ 指を滑らせたのだ
音がはしる
その鍵盤が奏でたところを
実のところ、見たことがなかった
けれど瞳を殺せばいつだって
美しい花弁が音楽を奏でている
あぁキリキリと円盤のまわる音
コツコツとたたかれる鍵盤の音
そして音楽
あなたの指を思い出して、今も...
無理な金額は自重してね。貰ったお金は多分お昼ご飯になります。