彼の胃袋をつかめない。〜料理コンプレックスと理想の妻像〜
「苦手な家事は何?」と聞かれたら、「料理。」と即答する。
それくらい、わたしは料理が苦手だ。
なぜそんなに料理が苦手なのか。
子供の頃から何度か受けた他人からの反応に、自信をなくしてしまったからだ。
「こんなものをもらう子、かわいそうね」。以来、料理が怖かった
最初は小学校の先生。「のぞみさんは家で料理のお手伝いしないものね、だからできないよね」と言われた。
たしかに母は台所には絶対入れてくれず、料理を教えてくれたことはない。でも子どものわたしにはどうしようもなかった。
次に、大学時代の友達。当時流行っていたクッキー作りに挑戦してみたわたしは、ちょっと不格好だけど美味しくできたクッキーの写真を友達に送った。
「何これ、全然できてないじゃん」と笑われた。
そして祖母。
当時付き合っていた彼へ、バレンタインの手作りケーキを作った。焼く工程まではなんとかできたが、綺麗にカットできなかった。
「こんなものをもらう子、かわいそうね」と言われた。
全てちょっとした言葉だけど、全てに大きく傷ついた。
料理下手は理想の妻になれない、という呪い
だから、料理にはとっても自信がなかった。
男性の胃袋を掴む自信はない。(なお今でも「胃袋を掴む」「愛され料理」という表現が怖い。)
それでも「妻になったら料理をするものだ」と思っていたから、結婚当初はわたしなりに努力して料理を習得した。毎晩夕食を作ったし、毎朝お弁当を作った。
勉強や部活と一緒、数をこなせばきっと上達すると思った。正直辛かった。意地だった。
しかし小学生の頃から料理をしてきた同世代の友人たちと、25歳からやっと料理を始めてネットで調べたレシピしか知らないわたしの差は大きい。
同じく妻になった友達の家庭の話聞くと、明らかにわたしより料理が上手い。
既婚の同僚の家に呼ばれると、出される料理の種類も質も知識も段違い。絶望した。
あぁわたしは努力をしても、理想の妻になれないんだ。
離婚したあと、学生時代まで頑なに台所に入れてくれなかった母が「あんた、料理とか家事してなかったんじゃないの?」とわたしに聞いた。
なんだよ、どうして結婚したら急に料理ができるようにならなきゃいけないんだよ。努力したけどみんなに追いつかなかったんだよ。
結局やっぱり、料理ができる女が理想の妻になれたんだ。
夫だった人に料理の質を指摘されたり非難されることはなかった。むしろちゃんと感謝してくれた。
でも、彼がわたしに料理を作ってくれたことはほとんど一度もなかった。
わたしが作れないときは問答無用でウーバーイーツ。
妻が料理をするのが当たり前、だよね。
胃袋を掴まずとも、2人で一緒に満たせばいい。
今のパートナーは食べることが好きで、わたしが今まで出会ってきた人間の中で圧倒的に最も量を食べる人だ。
だから彼は食べ物への興味が強く、量の分節約の意味も込めて自分で料理をする。
趣味の料理ではなく、自分が食べ生きるため日常の料理だ。
彼と料理をするようになってから、わたしだけが料理をしなくて良いんだと初めて実感できた。ふたりでやればいい。
理想の女・理想の妻像を無意識に演じてしまうことは、料理や結婚に限らずたくさんある。
こうして抱えていたたくさんの「当たり前」を降ろしていく作業を、これから意識して丁寧にやって行きたい。