玉坂汐音という存在#5
汐音、実はね。当時の君たちを書いた小説は今でもテキストファイルで残してある。時々読み返して、文体の稚拙さにやられるのは成長なんだと思いたい。こうやってnoteを書き始めて、また改めて読んでみて、ふと思ったことがある。
汐音視点の話は全体の半分ほどしかないということだ。
でも、汐音の名前はほぼ全てのお話に出てきているということだ。
つまり、私が望んでいたものはそれだった。
今でも覚えている。
高2の夏の初め、年に1回の合宿でのことだ。最上級生になったときの役職を話し合う前に、お互いが部活について思っていることを話そうという学年ミーティングのことだった。部活仲間の誰にも「自分を見せる」ことを未だにできなかった私が、ぐちゃぐちゃに泣きながら言った一言を、自分で今でも覚えている。
「みんなが言う"みんな"の中に、私は本当に入っているのかなって」
10年以上経ってもまだ私のこの部分はあまりに柔らかすぎて、自己防衛のために先に言っておく。別にみんなが私を"みんな"に入れてくれなかったわけではない。私が、傷つくのが怖くて入るタイミングを失い、またその実、ずっと入ることを躊躇っていただけなのだ。だいたいほぼ全て99%、自分の失態だ。今思えば、なんて身勝手な発言だったのだろうと呆れてしまうところでもあるが、当時の私は一杯一杯だった。憧れの部活に入り、練習はとても充実していて、毎日部活のことばかり考えていて、コミュ障で陰キャの自分はその毎日にしがみついていた。誰かと一緒に自主練をすることは少し怖かった。誰かと二人で話すことは、とても怖かった。
みんなは優しくて、あまりにも人間としてできていた。
自己矛盾の鎧でガチガチになってどうしようもない私を、どうしたものかと考えてくれた。手を差し伸べてくれた。
私のことを知ろうとしてくれた。私がいる場所を増やしてくれた。私のことを、ずっと気にかけてくれていた。
汐音、私が君のようになれたタイミングなんて、いくらでもあったんだ。でもなり方が分からなかった。実は今でも分からない。10年間、見ることができずに蓋をしてきたせいだ。
当時の私がずっと思っていたことだ。
「みんなのことは大好きだけど、みんなの中にいる私は大嫌い」
みんなは私のために変わってくれたのに、私だけが変われなかった。私が汐音になるためには、きちんと向き合わなければいけなかったのに。傷つくことを恐れてはいけなかったのに。どうしようもない人間がそこにいたとしても、あの17人はそこにいてくれた。そう今なら分かるのに、あの時は怖くてしょうがなかった。そして私は自分で着た鎧の脱ぎ方を、永遠に忘れた。
今なら分かる。今だからじゃない。高3の12月、18歳の誕生日にもらった手紙で、私は気付いた。
2人では気まずすぎてついぞお喋りすらできなかったのに、私よりも私を見抜いてくれた人がいた。いや、だからこそ私は彼女から逃げてしまったのだろう。本当に、私の弱さに尽きる。それが全てだ。
高校を卒業してからは、汐音、君は私と一緒には来なかった。実は当時1話だけ、大人になった君と、君が好きだった子が再会する話を書いていた。でも、それだけだ。高校生としても幼稚すぎる、夢だけを追いかけた話だった。でも、汐音の未来はそれだった。もちろん、今の私はそうなれていない。
汐音、今からでも君になりたいと言ったらどうする?
それにはまだ、もう少し、その後の現実の私がどうだったかを君に話さなければいけない。