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文学賞に落選。心機一転再スタートを切る① チェック(検証)&アクション(改善)を繰り返す

エンターテインメント(ノンジャンル)の文学賞に応募する際に、何度も推敲し、文章も圧縮したのだが、ビギナーズラックは訪れることなく、選に漏れてしまった。そう簡単に事が運ばない、と分かっていたので悲嘆に暮れることはなかった。

落選後も、読み返しながら加筆して、小説の最後まで見直したら、いったん執筆を止めて原稿を寝かせた。意欲がみなぎるのを待って、再び冒頭から原稿をチェックする。

別の作品を書いて、再度文学賞に挑もうという考えはなく、現在の小説をいかに磨き上げるかに集中した。


小説講座でダメ出しを受けよう

「こうなると、小説は完成」という判断を、未熟者の私が下すことは難しく、小説講座を頼ることにした。「すでに書いている小説をチェック・校正して、アドバイスをする」コースを選択し、小説のプロ、添削のプロの意見を聞こうと考えたのだ。

原稿をメールで送り、数週間して赤字が入った原稿が戻ってきた。

文学賞に応募するときは、指定通り、縦書きのレイアウトにして添付ファイルで送ったのだが、講座への応募では、いつも利用している横書きで、A4判の用紙いっぱいに文字が詰まったファイルを送っていた。

小説のプロからの最初のアドバイスは「縦書きにして、文字の大きさ、行間や字間を読みやすい形にして書いたほうがいい」「誉め言葉に有頂天にならず、辛口の批評にめげずに、書き続けてください」というものだった。

何十年も横書きで原稿を書いてきたので、縦書きでは書きにくいと思い込んでいた。だが、縦書きに慣れると、小説の場合、視線が上下に動き、違和感なく執筆できると感じた。

そして、講師の辛口の指摘に沿って、再度書き直した。「展開がゆっくりし過ぎて、読者が、あるいは文学賞の下読みのスタッフが投げ出してしまう」「早く事件を起こせ」という忠告には大手術が必要だった。

プリントアウトした原稿用紙に、赤字でさまざまなアドバイスが書き添えられている。その中で、特に参考になったのが、「ここまで読んでの感想」だった。

詳細は、別紙の講評で解説してあり、原稿と講評を付き合わせながら読んでいくスタイルとなっている。

「読者はこの時点で、こう感じている」「主人公の考えが上手く読者に伝わっていない」「情報や知識を詰め込み過ぎていて、読者が疲れてしまっている」といった事実に気付かされ、「この小説で何を訴えたいのか。座標軸をしっかり持って、その一点に向かって書き進めるように」とハッパを掛けられた。

今もアドバイスに従って推敲を進めている。その一方で、作品をどのように読者に届けるか、模索を続けている。読者に小説を読んでもらう手段は格段に増えてきた。

1億総表現者時代が到来した

以前、誰もが表現者になれる世の中が到来したというテーマで取材し、特集を作ったことがある。自主制作の映画で100万人を超える観客を動員し、小説、動画、音楽を配信し、自費出版で手軽に本を出せる「1億総表現者時代が始まっている」という内容だった。

ケータイ小説が話題を呼び、電子書籍の市場が急拡大していた。その特集の後も、小説投稿サイトが次々と誕生している。

そして、「どの文学賞を受賞すると作家になれるの?④ 賞金に幅があるライトノベルの文学賞」で紹介したように、ライトノベル・新文芸の文学賞が続々と新設される事態になった。

小説を公表する場として、小説投稿サイトの現状がどうなっているのか、新たに調べることにした。小説投稿サイトが産声を上げた前後に、ケータイ小説が注目され、出版界に大きな変革をもたらしていた。

何がどう変わったのか、当時の状況を振り返っておこう。

出版界を席巻したケータイ小説

ケータイ小説のパイオニアは、個人サイト「ザブン」上で2000年10月から『Deep Love』という作品を公開し始めたYoshiだ。

女子高生を中心に口コミで話題になり、Yoshiは自費出版で書籍版を出して10万部を売り上げた。さらに2002年にはスターツ出版から商業出版として単行本が上梓され、シリーズ累計で300万部を超える大ヒットとなった。

これに続いたのが、簡単に小説を公開できるウェブサイトに2002年から書いていたChacoである。2005年に『天使がくれたもの』がスターツ出版から発行され、映画化もされた。

2005年から執筆を始めた美嘉のケータイ小説『恋空』は、2006年10月にスターツ出版で書籍化されている。

ケータイ小説サイトに2006年に登場し、翌2007年、ゴマブックスから単行本が発売されたのが、メイが書いた恋愛小説『赤い糸』だ。

2006年発売の美嘉の『恋空』は1か月で100万部を売り上げ、2007年発売のメイの『赤い糸』は発売1週間で100万部を突破した。

ケータイ小説を投稿できるウェブサイトの運営会社、「魔法のiらんど」の草野亜紀夫編集部長(当時)はケータイ小説の登場について、以下のように語っていた。

「文学の世界に地殻変動が起きている。ひょっとすると、平安時代に女流文学が生まれて以来の革命かもしれません」

それを裏付けるかのように、2007年の単行本(文芸書)のベストセラートップ10のうち、5冊がケータイ小説だった。順位、ケータイ小説のタイトル、著者、出版社を以下に示した(トーハンの調査)。

単行本(文芸書)ベストセラーの上位を独占


1位 恋空 切ナイ恋物語  美嘉     スターツ出版
2位 赤い糸        メイ     ゴマブックス
3位 君空         美嘉     スターツ出版
5位 もしもキミが。    りん      ゴマブックス
7位 純愛         稲森遥香   スターツ出版

誰もが作品をサイト上に無料で掲載でき、手軽に発表する場を持てるようになった。読みたい人は携帯電話さえあれば、好きな時にどんな場所でも、無料で小説が読める時代になった。

2003年からは通信料金の定額制が定着し、反応や感想をサイトに書き込む読者が増えた。そうした声が書き手にフィードバックされて、ストーリーを変えていく。双方向性のコミュニケーションを上手く活用し、共感を呼ぶ作品が産み出された。

ケータイ小説が出版業界に革命を起こす

ケータイ小説の作家は無名の書き手が多かった。匿名の著者が生々しい場面、むき出しの感情を綴っていて、読者は自分の体験を重ね合わせたり、主人公を身近に感じて物語に引き込まれていく。

魔法のiらんどが運営する「魔法の図書館」からケータイ小説のヒット作が次々と生まれた。それをスターツ出版、ゴマブックスなどが書籍化し、双葉社がコミックスを出すというパターンができ上がっていた。2007年はケータイ小説の絶頂期だった。

ベストセラーが相次ぐ一方で、新たな動きが始まっていた。「表現力に乏しく、描写が稚拙である」「扱っているテーマは、売春、レイプ、妊娠、薬物、不治の病、自殺、真実の愛が多く、パターンが似ている」といった批判もあり、ケータイ小説は次第に勢いを失っていく。(敬称略)


アマゾンのキンドル出版で、2023年8月、ペーパーバックと電子書籍の小説が発売されました。「権力は腐敗する」「権力の横暴や不正を許さない」をテーマにしており、お時間のある方はお読みください。
『黒い糸とマンティスの斧』 前原進之介著

この連載記事は、以下のような流れになっています。
1 小説を書きたいと思い立った「いきさつ」
2 どうしたら小説が書けるようになるの?
3 小説講座を探そう 
4 どの文学賞を受賞すると作家になれるの?
5 文学賞に落選。心機一転再スタートを切る



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