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POD(プリント・オン・デマンド)での出版を探る② 本の設定価格が高くならざるをえない

POD(プリント・オン・デマンド)による出版には、どのようなメリット・デメリットがあるのか。インプレスホールディングスとメディアドゥ(いずれも上場企業)の合弁会社、PUBFUN(パブファン)の「ネクパブ・オーサーズプレス」のケースをチェックしてみよう。


「ネクパブ・オーサーズプレス」


「自分で作るから出版が面白い! あなたの本を無料で自己出版できます。」というキャッチコピーを掲げ、サービス内容を丁寧に解説したサイトとなっている。

ネクパブ・オーサーズプレスでは、出版用の原稿データは作者側が作成する。そのため、自費出版とは異なり、編集費は発生しない。レイアウトなどを決め、完全な原稿データを作る必要があるが、有料のオプションサービスでデータ作成や表紙作成を支援してもらえる。

「充実のオプションサービス」

印刷用本文データ作成支援、表紙作成支援、I SBN(国際標準図書番号)登録、国会図書館寄贈などの支援サービスがあり、電子書籍かんたん変換など、無料のサービスもある。

紙の書籍の出版(POD出版)にかかる費用はどうなっているのか。
モノクロの印刷費は
ページ数×2.75円(税込)+ 基本料198円(税込) となる。

著者は販売価格を自由に設定でき、著者の受取額は
販売価格(1円単位で設定可能)-販売手数料(販売価格の40%+税)-印刷費  となる。

350ページの本を1500円で販売すると、1冊当たり320円の赤字。販売価格を1800円に設定しても152円のマイナスになる。2073円に価格設定すると、ようやく著者の受取額が1円となり、利益が出る。

ネクパブ・オーサーズプレスのホームページには、総ページ数、その中のカラーページ数、設定価格を入力すると、著者の受取額が算出されるシミュレーターが用意されている。

「著者の受取額シミュレーター」

表紙のデザインや印刷用本文データ(PDF)作成を依頼したり、ISBN(国際標準図書番号)コードを本に付ける場合もオプション料金がかかる。完全原稿データを作成する前に、校正・校閲をプロに依頼すると、校正費が別途必要である。

無名の作家の作品が高額では売れないので、350ページで1500円に価格設定するとしよう。1冊当りの著者のマイナスは320円で、1000部売れると32万円の赤字。話題になって1万部売れたら、320万円の出費となる。大ヒットなど、心配する必要はないかもしれないが……。

学術書や絶版本の復刻に向いているPOD出版

ページ数が少ない単行本ならば、利益を出しやすい。150ページの本に1200円の価格を設定すると、1冊当たり62円の受取額になる。ただ、ここには校正費や表紙のデザイン費などは含まれていない。

350ページほどのボリュームのある本はPODでの出版には向いていない。発行部数が多くなっても、1冊の本のページ数が増えても、量産効果が出ないからだ。

ネクパブ・オーサーズプレスを利用して出版された書籍はこれまでに6500作品に上る。だが、総販売数は32万冊。1作品当たりの販売数は、わずか49冊である。

総販売額が7億5000万円なので、1冊の平均単価は2343円(データは2022年9月時点)。小ロットで単価の高い学術書・専門書や絶版となった本の復刻版には適しているが、小説を出版して多くの人に読んでもらうには、POD出版は適していない。

32万円の赤字覚悟で1500円という価格設定にして、販売部数を1000部に限定して、電子書籍での販売を併用する方法も考えた。だが、不可能だと分かった。

FAQ(よくある質問)の「販売価格は自由に設定できますか? 最低販売価格はいくらですか?」という項目の答が以下のようになっている。

価格は、「印刷費」+「販売手数料(設定価格×40%)」を上回る価格であれば、1円単位で自由に設定が可能です。お支払額がマイナスになる価格設定はできません。
赤字となる価格設定は、できないようになっているのだ。

「手頃な価格で、小説を読者に読んでもらいたい」と考えたとき、POD出版では価格面で難しい。

印刷部数が増えたら、販売価格の40%という販売手数料を段階的に引き下げるとか、モノクロ1ページにつき2.75円の印刷費を逓減していくことはできないか。POD出版の事業者に、検討をお願いしたい。

個人を対象としたインプレスR&Dのプリント・オン・デマンド(POD) サービスの「ネクパブ・オーサーズプレス」と、出版社や法人を対象としたメディアドゥが手掛けるPODサービス「PUBRID(パブリッド)」の事業を統合し、合弁会社(PUBFUN)の新設が2022年2月に発表されたが、新会社発足後に新たな料金体系をスタートさせるのではと、私は予測した。

利用者の利便性が上がり、市場が拡大すると考えたが、価格体系は従来のままだった。

ネクパブ・オーサーズプレスでは、アマゾンとDNP(大日本印刷)の「プリント・オン・デマンド(POD)プログラム」の印刷製本の仕方やPDFファイルの登録作業の進め方、アマゾンの電子書籍「Kindle」の販売代行サービス「電子書籍出版」のユーザーガイドを編集。「アマゾンPODプログラム」の取次会社と出版社の中で、ネクパブ・オーサーズプレスのサービスの質は群を抜いていると思う。

ネクパブ・オーサーズプレス作成のガイド

ユーザーガイド(仕様編)
ユーザーガイド(操作編):一般会員用
ユーザーガイド(操作編):プロフェッショナル会員用
ユーザーガイド(電子書籍)

ユーザーガイドはそれぞれプリントアウトできるようになっており、サービスの全体像と作業手順を分かりやすく解説している。

アマゾンが提供する「Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)」では電子書籍の出版に加えて、紙の書籍を無料でセルフ出版できるようになった。2021年10月から紙の書籍の出版サービスを開始。本の著者は販売価格を自分で設定でき、紙の書籍で60%、電子書籍で最大70%のロイヤリティを受け取れる。

ただ、書店での販売はできない。小説を出版することができても、書店の店頭に並ばないのは、昭和生まれの世代には寂しい気がする。

Kindle ダイレクト・パブリッシング(KDP)の詳細に触れる前に、次回は自費出版の可能性を検討してみたい。(敬称略)


アマゾンのキンドル出版で、2023年8月、ペーパーバックと電子書籍の小説が発売されました。「権力は腐敗する」「権力の横暴や不正を許さない」をテーマにしており、お時間のある方はお読みください。
『黒い糸とマンティスの斧』 前原進之介著

この連載記事は、以下のような流れになっています。
1 小説を書きたいと思い立った「いきさつ」
2 どうしたら小説が書けるようになるの?
3 小説講座を探そう 
4 どの文学賞を受賞すると作家になれるの?
5 文学賞に落選。心機一転再スタートを切る
6 多くの人が小説家を名乗れる時代になった
7 POD(プリント・オン・デマンド)での出版を探る

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