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多くの人が小説家を名乗れる時代になった② 広告収入をすべて投稿者に還元する小説投稿サイトも

KADOKAWAの他にも、複数の小説投稿サイトを運営している企業がある。ケータイ小説の出版で、いち早くネット小説ビジネスに着手したスターツ出版だ。「野いちご」、「Berry's Café」、「ノベマ!」の3つの小説投稿サイトを抱えている。

ケータイ小説家のYoshiが書いた『Deep Love』は2002年12月にスターツ出版から発行された。Chacoが著した『天使がくれたもの』は2005年10月に、美嘉の作品『恋空』は2006年10月に同じくスターツ出版から発売されている。いずれも100万部を超えるベストセラーになった。

スターツ出版はケータイ小説のパイオニアであり、ケータイ小説の全盛期に小説投稿サイトを創設し、その後も市場のニーズに合わせて新設している。


野いちご    2007年5月   スターツ出版

野いちご - 無料で読めるケータイ小説・恋愛小説 (no-ichigo.jp)

Berry's Cafe  2011年10月 スターツ出版

女性に人気の小説を読むなら ベリーズカフェ (berrys-cafe.jp)

ノベマ!     2019年4月  スターツ出版

小説サイト ノベマ! (novema.jp)
ケータイ小説に関心のある若い世代に向けて、スターツ出版は2007年5月、「読む」「書く」に特化したユーザー参加型のケータイ小説サイト「野いちご」を開設した。「野いちご」のユーザーは女子中高生を中心に急速に拡大し、高いアクセス数を誇った。

「野いちご」からは、『白いジャージ』(reY著)や『クリアネス』(十和とわ著)、『この涙が枯れるまで』(ゆき著)、『プリンセス』(陽未ひみ著)などのヒット作が世に送り出された。

2009年4月に「ケータイ小説文庫」を創刊し、2015年12月に「この1冊が、わたしを変える。」をキャッチコピーにした「スターツ出版文庫」、2017年3月に「野いちご文庫」、2020年8月に「野いちごジュニア文庫」を発刊している。

中高生の女性が中心読者だった「野いちご」に対し、2011年10月に「オトナ女子が楽しめる! 初の本格的小説サイト」と銘打って、「Berry's Café」が開設された。

読み放題のサイトに投稿された20万以上の作品の中から、恋愛小説を中心に毎月5冊以上が書籍化された。デビューした作家は340人を超える。

恋愛小説レーベルの「ベリーズ文庫」、電子書籍レーベルの「マカロン文庫」、単行本レーベルの「ベリーズファンタジー」、電子コミック誌の「コミックベリーズ」をラインナップしている。

「野いちご」と「Berry's Café」の主要読者は女性だったが、さらにスターツ出版は、ジャンル・年齢・男女を問わない総合小説投稿サイトを開設した。2019年4月にスタートした「ノベマ!」だ。 

読者像を10代~60代までの幅広い年齢層の男女とし、青春、恋愛、ミステリー、ホラー、パニック、妖怪、人情話、歴史・時代小説など幅広いジャンルを設定している。

「小説を通したコミュニケーションと小説家デビューを応援します」をコンセプトにし、累計320万部(ノベマ!の開設時)を突破したスターツ出版文庫からの書籍化のチャンスがある。

「スターツ出版文庫大賞」や、和風シンデレラストーリー、余命、リスタートなどのテーマを設定した「ノベマ! キャラクター短編小説コンテスト」といった各種小説コンテストも随時開催する。

なお、姉妹サイトの「野いちご」と「Berry's Cafe」の会員は「ノベマ!」の新規登録が不要で、サイト間の交流がしやすいようになっている。

小説、漫画、ゲームを1カ所で楽しめるポータルサイトも

 大手広告代理店、博報堂出身の梶本雄介が設立したアルファポリスは、2000年9月に書籍の出版を支援するサービス「ドリームブッククラブ」をスタートさせた。

自社のサイトに公開された小説やノンフィクション作品に、読者がポイントを付けて、300ポイントに達した作品を出版するという仕組みだった。

読者による購入と、出資という支援で書籍化を目指す独自の方式により、小説では『Separation』(市川拓司著)、『レイン』(吉野匠著)、『虹色ほたる』(川口雅幸著)などのヒット作が生まれた。

だが、2010年7月にドリームブッククラブは閉鎖されてしまう。開設以来、1775作品がサイトで公開され、そのうち47作品が出版された。

しかし、ドリームブッククラブからの出版点数が年に1〜2点の状況が続き、300ポイントに達しても出版化を見送るケースが目立っていた。

「ドリームブッククラブ」の閉鎖前に、アルファポリスは、読者からの投票結果に加え、作家からの出版申請を基にした出版制度を2008年1月に開始し、同年2月にアルファポリスwebコンテンツ大賞の開催を始めた。

アルファポリス 2008年2月 アルファポリス

アルファポリス - 小説・漫画・ビジネス等の総合エンターテインメントサイト (alphapolis.co.jp)
小説などの作品をサイトに公開するスタイルは、2000年の「ドリームブッククラブ」のスタート当初から行っていたが、このレポートでは、webコンテンツ大賞を新設した時期を開設時期とする。

アルファポリスのホームページは小説、漫画、ゲーム、書籍情報などが無料で楽しめるポータルサイトを兼ねている。これをもって「アルファポリス電網浮遊都市」とうたっている。

2014年10月にアルファポリスは上場し、2015年1月からは投稿作品の人気度に応じて作家に報酬を支払う「投稿インセンティブ」サービスを始めている。 

これはアルファポリスの広告収入(リワード広告を除く)を、すべて投稿インセンティブで還元するものだ。リワード広告というのは、広告のリンク先のWebサイトで、商品の購入などの成果があると、リンクに誘導した媒体に、成果報酬が支払われる広告のこと。

アルファポリス内に投稿された小説や漫画については、閲覧数に加え、お気に入り数、感想数、更新頻度などをベースにスコアが集計される。アルファポリスのサイト以外の外部登録作品はランキングバナーの表示回数を基にスコアをカウントする。

獲得したスコアは、各種ギフト券や現金と交換できるが、具体的な計算式などは不正防止のため開示されていない。

アルファポリスは小説をコミカライズしてヒットにつなげることにも力を入れている。

『ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』(作画・竿尾さお悟 原作・柳内やないたくみ)、『月が導く異世界道中』(作画・木野きのコトラ 原作・あずみ圭)、『転生薬師は異世界を巡る』(作画・マツオカヨシノリ 原作・山川イブキ)、『さようなら竜生、こんにちは人生』(作画・くろの 原作・永島ひろあき)などがそれにあたる。

アルファポリスは「ファンタジー小説」「エタニティブックス」「レジーナブックス」の小説をコミカライズするため漫画家を募集しており、今後もコミック部門の強化・拡大を図る考えだ。(敬称略)


アマゾンのキンドル出版で、2023年8月、ペーパーバックと電子書籍の小説が発売されました。「権力は腐敗する」「権力の横暴や不正を許さない」をテーマにしており、お時間のある方はお読みください。
『黒い糸とマンティスの斧』 前原進之介著


この連載記事は、以下のような流れになっています。
1 小説を書きたいと思い立った「いきさつ」
2 どうしたら小説が書けるようになるの?
3 小説講座を探そう 
4 どの文学賞を受賞すると作家になれるの?
5 文学賞に落選。心機一転再スタートを切る
6 多くの人が小説家を名乗れる時代になった


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