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小説を書きたいと思い立った「いきさつ」④ 経営に対する質問・要望書を社員に公開しただけで下された懲戒処分

人事担当常務のEは役員応接室で私と向き合うと、いきなり高圧的な態度を取った。
「人事に関して質問することは越権行為である。質問には答えられない」

かつて週刊Dの編集長だったFはマーケティング局に異動し、2年後に取締役になった。今回の人事異動は、そのFが雑誌編集局長として戻ってくるというもの。Fの妻であり、週刊D副編集長のGは、資本関係もなく、聞いたこともない企業に突如出向していた。そのGが出向を終え、職場に復帰すると、FとGが同一職場で仕事をすることになり、人事評価の公平性を失いかねない。

事前に提出していた質問の内容が役員や会社にとって不快で、不都合なものであったようだ。触れられたくない領域に足を踏み入れたのだろう。だが、やはり記者の習性が出てしまう。相手が答えたくないこと、隠したいことを聞き出し、真相に迫って報道しようという姿勢を常に持っている。手を替え、品を替えながら、一切答えないと宣言していた常務のEから、出向の一端を聞き出した。 

「Gさんの出向は会社の全体最適を考えて実施した人事だ。出向先のノウハウを吸収し、D社にフィードバックすることになっている」
「Gさんが出向先からD社に戻らなかったら、どうなりますか」
「この出向人事は失敗ということになる」

こうした証言をE常務から引き出した直後、私はF取締役に電話した。すると用件を何も話していないのに、「人事担当常務のEさんに話を聞いてくれ」という。逃げの一手で、会おうともしなかった。

翌年、人事担当常務のEは退任。その3カ月後の9月、「不可思議な出向」をしていたG(週刊D副編集長)に大きな変化があった。突然、Gは社員にメールを送り、12月末で会社を辞めると連絡してきたのだ。

ここで私は、人事・管理部門を管掌する取締役のHに面会を求めた。出向していたGの人事についての見解を聞くとともに、急きょ書き上げたA4判20ページ弱の「D社の人事、経営施策に関する質問・要望書」を渡し、「全役員に配布して、取締役会総意の回答をお願いしたい」と伝えた。

始末書は相手の行動を牽制するための脅し

だが、Hは他の役員に文書を配布しなかった。再度要請するも、聞き入れてもらえなかったので、社長をはじめ役員全員に「D社の人事、経営施策に関する質問・要望書」をメールで送信した。

経営陣は文書を黙殺したため、面識のある社員200人弱に、「D社の人事、経営施策に関する質問・要望書」を添付してメールを送った。個人名はA、B、Cとアルファベットに変えて、プライバシーに配慮した。

2週間後、質問・要望書を社員に送った私に対し、経営側は懲戒処分を下して、始末書の提出を執拗に求めた。

始末書の文面は予め会社側が書いていたものだ。それに住所、名前を署名し、印鑑を捺すだけの状態だった。要約すれば「社内外の関係者に混乱を招いたことを深く反省しお詫び申し上げます。私が今後同様の行為やその他就業規則に反する行為を行った場合は、いかなる処分にも不服を申し上げません」という内容である。

会社側が社員を「黙らせる」ときのパターンの1つである。懲戒処分を下してブラフ(脅し)をかけ、始末書を書かせて行動を制限する。私への処分はその典型的なものであろう。

知人の弁護士に相談すると、「始末書の提出を強要するのは、内心の自由に反している。提出する必要はない」とキッパリ言い切り、判例を示したペーパーを私に手渡した。今後も拒否し続けて何ら問題はないというアドバイスだった。

人事を担当する取締役Hは「始末書を提出するまで毎週呼び出して、署名、捺印させる」と強硬な姿勢を見せていた。だが、2度目に面談した際に「内心の自由に反するのではないですか」と告げたところ、3度目の呼び出しが来ることはなかった。(敬称略)

アマゾンのキンドル出版で、2023年8月、ペーパーバックと電子書籍の小説が発売されました。「権力は腐敗する」「権力の横暴や不正を許さない」をテーマにしており、お時間のある方はお読みください。
『黒い糸とマンティスの斧』 前原進之介著

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