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オーバードーズを薬局の薬剤師と話してみた話

ふと立ち寄った近所の調剤薬局にこんなポスターが掲示されていた。

オーバードーズのこと薬局の薬剤師と話してみませんか?

私は都合10年以上市販薬のオーバードーズに苦しんでいる。
最初こそ辛い日常からの「現実逃避」であり、偽りの快楽を求めていたはずだったが、オーバードーズは徐々にエスカレートしていき、いつしか薬物が抜けたときの強烈な離脱症状を解消するためだけの手段と化していた。薬物を入れないと、腹痛、とめどのない下痢、嗜眠そして不眠、耳鳴り、幻聴、頭痛、鼻炎に似た鼻汁、せき、たん、発熱といった具合に体調不良のオンパレードである。
入院もした。
しかし、退院後ひどく辛い出来事があり、また繰り返してしまった。
こうしていくうちに「自分はオーバードーズとはもはや縁を切れない」と全てを諦めて、一日100錠を超える量の市販薬を毎日飲む生活に戻っていた。
そこに快楽などない。身体を痛めて、痛めつけて、それでもオーバードーズをしていないと「本気を出せない」ような気がしてしまうようになったんである。
もちろんこれは間違っている。薬でブーストした自分というのは「無茶」であり、本来薬が抜けている状態が「正常」なんである。それでも、薬物によって支えられた「社会適合」から逸脱してしまう恐怖感で、また薬に手を出してしまう。

そこで、ある事件が起きた。
「事故」だった。これにより、いつもひっそりと飲んでいた市販薬が両親の知れるところとなったのである。
元々、オーバードーズに嫌気が差していたタイミングだった。ドラッグストアではどんどん規制が強くなり、レジでは「資格者からの販売となります」と呼び鈴が鳴り、薬剤師を呼んで注意喚起をされる時間、これが苦痛でならなかった。もちろん地元のドラッグストアで頻繁に薬を買うのは不可能であるから、私の住む三鷹の駅周辺から、薬を調達するために電車に乗り、吉祥寺、荻窪、中野、新宿といった具合にエリアを拡大していったのである。それでもやはり頻回になってしまうから、服装や髪型を変え、あたかも別人として何度も行くのである。
お金も減る。
貯金は一向に増えず、薬に支えられながら仕事をし、給料のほとんど全てを薬に溶かす生活となっていた。
一体自分は何をやっているのか。

私は考えた。
これは、オーバードーズから脱却するための良い機会ではないか。
しかし、薬物にズブズブにはまっている以上、薬を断つというのは非常に困難なことである。
友人に協力を求めたこともある。しかし、「オーバードーズ脱却は順調だよ」と嘘をつくしかなかった。せっかく親身になってくれたのに、裏切ってしまった罪悪感でいっぱいだった。
「精神科にかかっているのだから、主治医に相談してみてはどうか?」
これは、至極真っ当な意見である。しかし、オーバードーズの癖がある人間に対して精神医療は冷たい。ベンゾジアゼピン系睡眠薬を始めとする、正しく服用すれば大変有用な薬も、濫用のおそれのある医薬品としてすべて処方を切られるという話はよく耳にする。
これは、困る。
そこで、インディペンデントな窓口に「本気で」相談することを考えた。
秘密は、厳守する。
そして、普段はご厄介になることのない、たまたま立ち寄っただけの調剤薬局である。

薬剤師さんは非常に優しく、丁寧で、かつ真摯に私と向き合ってくれた。
オーバードーズに手を出した過去の苦々しい経験から、オーバードーズがやめられないという現実、一度入院してやめたこともあったが、また繰り返してしまった経緯、そしてやめたいという意思を強く持っていること、これらを全て率直に話した。
そして、薬剤師さんは「個人的なツテだけど」と言って、市販薬オーバードーズを断ち切るための自助会を紹介してくれた。
最初、薬剤師さんは驚いた様子だった。
ポスターを掲示しているとはいえ、本当に相談に来る人は極めて少ないのだろう。
現実問題、オーバードーズをしている若者の中で、本当に「沼」にはまりこんでしまった例というのは意外に少ない。人生をハッピーに生きる裏技としてファッショナブルに乱用している人・コミュニティのほうがマジョリティである。私自身、様々な「病み界隈」を漂流していて、これは確かな実感としてある。

自助会からは明日の午後連絡が来る。
実際に参加してみた感想は、公開できる範囲で改めて記事に綴ろうと思う。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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