本を出したい女の話13
次のステージに進みなさいというサインは良からぬ形で突然起きた。オーナーとド派手に喧嘩したのだ。それまでも理不尽なことには耐えてきたがその時ばかりはもう限界だった。若気の至りで頭に血が上ったのではない。今思い出しても同じ選択をすると思う。もうここで働くのは無理だと決断するには十分な判断材料だった。
辞めることを決断した途端に運が完全に私の味方をし始めた。手放すと新しいものが入ってくる。
ある日東京にて旅人が集まるイベントがあると知った。それには私が憧れてやまない女性が登壇する。どうしても会いたかった。そして仕事をズル休みして念願の彼女に会いに行った。実際の彼女は思っていたよりも更にフランクで初めましての私にもとても優しく話してくれた。更にはどういうわけか、彼女も含めた仲間たちと一緒に一晩同じ宿で過ごせたのだ。なんという奇跡。
当時北海道に住んでいた私はここぞとばかりに東京で会いたい人にコンタクトを取り会いに行った。先程話した運命の本を書いてくれた美容師さんにも会いに行った。どうやって道端でヘアカットをするのか、海外に行って困ることは何か、どう発信したらいいかなど彼は快く教えてくれた。
他にも画面越しに見ていた旅人たちが、イキイキと自分たちのやりたいことをして楽しそうに生きてる姿を生で見て、私もこうなりたいと、そしてこういう人たちに囲まれて生きていきたいと強く思った。
興奮冷めやらぬまま地元に戻り、次の仕事はどうしようか。旅が終わってから新しい美容室を探そうかと右往左往していたときに飛び込んできた新規美容室の求人募集。働き方も給与形態も理想通りでここで働きたい!と思いながらも、旅も行くしなぁ…と悩んでいた時、母にいつも思い立ったら即行動なんだから面接だけ受けてみたら?と背中を押された。あの時の母の言葉がなければ踏み出せなかった。親のくれる一言には偉大な力がある。子を正しい方向へと導いてくれるのも、やっぱり親なのだ。
同時に言葉は人のやる気を踏み潰す時もある。
海外なんて危ないよ、それやってどうするの?意味あるの?英語も喋れないのに行けるの?などなど散々周りからの雑音も飛んできた。なんの知識もないまま挑んだクラウドファンディングは思ってたよりも難しくて、心が折れそうになることも沢山あった。変化するのは怖い。今いる環境を全部手放して見知らぬ土地に行くんだ、不安がないわけじゃない。でもそんな雑音に負けるほど私も生半可な気持ちで取り組んでないのだ。
そして捨てる神あれば拾う神ありなのもこの世の中の真実。
母に背中を押されて、面接に行った際私は正直に現状を話した。3ヶ月後世界に旅をしに行くこと、そのため今面接を受けるか悩んでいること、それでもここで働きたくて連絡をしたこと。恐る恐る言った私に対し担当者は『とても素敵な夢。それを叶えることがお客様にも他のスタッフにもいい刺激を与えるし武器になる。ぜひ休職して行ってきてください。会社で応援します。』と、思ってもみない嬉しい言葉を贈ってくれた。この会社と巡り合うために私は5年間修行して来たのだと心から思った。
何かしらの行動すると運が味方してくれる。
そんなことを思いながら、前日に高熱を出したものの、家族や会社、友達に見守られながらハサミを持って世界一周に行くという夢は叶ったのだ。