英語4技能試験についての公聴会を聞いて

衆議院文部科学委員会(11月5日)でのヒアリングを視聴。案件は「文部科学行政の基本施策に関する件(広大接続改革)」とあるが、先日に萩生田文部科学大臣から発表された大学入試における英語4技能試験の中止をめぐる参考人聴取を目的とした委員会だった。

文部科学委員会の委員長と質問者は下記の通り:

* 橘慶一郎(委員長)
* 中村裕之(自民党・無所属の会)
* 菊田真紀子(立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム)
* 鰐淵洋子(公明党)畑野君枝(日本共産党)
* 森夏枝(日本維新の会)
* 笠浩史(無所属)

参考人は下記の通り:

* 吉田晋(日本私立中学高等学校連合会会長・学校法人富士見丘学園理事長富士見丘中学高等学校校長)
* 萩原聡(全国高等学校協会会長)
* 山崎昌樹(株式会社ベネッセコーポレーション学校カンパニー長・取締役副社長)
* 羽藤由美(京都工業繊維大学教授)

議事詳細は下記:
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=49466&media_type=
Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=_Al60oxc5AU

結論から言うと、いろんな意味でわが国の教育政策の危うさを浮き彫りにした委員会だったと思う。それぞれの参考人も、使う言葉と論理性とに気を配って発言しておられたはずだが、期せずして公教育の理念と、その制度検討において科学的思考の不在と未熟さが顕在化した感がある。

参考人の意見として特にひどいなと感じたのは次の部分:

[2:13:40] 延期を受けた現場の声を聴きたい(森委員・日本維新)
[2:13:55] 吉田参考人・混乱している。(4技能での学びを)やってきた生徒、やってこさせられた学年の生徒の救済が必要。(4技能試験では)暗記しなくてよいと言われて学んでいた生徒が、やっぱり基礎学力が必要になったうえで表現力・判断力・思考力が必要になると言われ混乱する。受験で不利益を被る。

この意見陳述は教育者として完全に欠格した発言であるし、英語4技能を単なる受験知としてとらえているだけでなく、「受験知の形成以外は学びではない」と断言している。本人は英語4技能試験の延期にともなって、学習者がこれまで学んできたことが「無駄になる」として文科省に責任と対応を求めている。しかし、英語4技能が英語活用能力の形成にとって全く有効性がないならともかく、受験で活用されないから無駄というのは暴論だろう。
  森委員は、残念ながらスルーしているし、この吉田参考人はこの後も繰り返し同じ主張をしている。論理性にも、教育者としても欠陥だらけのこの論理が、吉田参考人の周囲では無批判に通っているのではないかと邪推せざるを得ない。

質問者の政治家の方々も、参考人の回答が何を意味しているのかを丁寧に理解しようとするものではなかったように観察された。それぞれの質問時間は短いにも関わらず、おそらく時間を持て余したとみられる議員が2名もあったことにも少々驚きを覚える。最も残念だったのは日本維新の会の森委員の「時間が後3分ほどに~」から続く質問 [2:31:32]。

委員のレスポンスとして表面的だと感じたのは次の部分:

[1:59:10] 採点者としてアルバイトや海外事業者を使用するか(畑野・共産党)
[1:59:47] 山崎氏(ベネッセ):GTECでは、採点者はアルバイトではなく、大学生ではない雇用者を用いている。GTECは海外事業者を活用している。

海外事業者が雇用している採点者はどういう雇用形態で、どのような訓練・研修を受けているのかについての追加質問が必要ではないか。国外で子会社を開設して、そこでアルバイト採点者を雇用することも考えられる。

政策の検討や判断において<まともな>エビデンスとその活用が求められるのももちろんだけど,そのエビデンスをもとに国内の多様性や課題への日常的な関心と洞察を踏まえて,自分の頭で考えてレスポンスできる政治家をきちんと選ぶことの重要性を改めて痛感する。

そして,羽藤教授の参考人としての発言を聞いていて,要点を整理して発言することはもちろん,主語と述語とを明確にして短文でメッセージを伝えることが重要だということを痛感した。アカデミア内部や身内での話し方では,どんなに重要なことを話していても伝わらない。科学的思考が軽視される背景には,アカデミアと市井とをつなぐアウトリーチ研究の不在・不十分さがあるのかもしれないと考えさせられた。


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