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「祖母のしめ鯖」
「僕の昭和スケッチ」イラストエッセイ262枚目
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子どもの頃に祖母は冬になると毎年しめ鯖を作ってくれた。
けれど、祖母には申し訳ないが、子どもの僕はしめ鯖を美味しいと思った事は一度もない。一切れ箸で摘んで口に入れてみるが、すぐに箸を置く。
加えて我が家は父も母も大好物という程ではなかったようで、こちらもさほど箸が進まなかった。二人共揃って下戸ということもあったかも知れない。
その為か、しめ鯖の売れ行きは毎年はかどらず、祖母が殆ど一人で食べていた。だが、一人で食べていても飽きるのか、最後には何やらどんよりとした付け酢の中で鯖の小さな尻尾がいじけたように売れ残っていた。
けれど、それでも毎年毎年祖母は冬になるとしめ鯖を作った。
僕は、変わらず毎年一切れ口に運ぶ。
今年こそ少しは大人になって、美味しいと思えるかも知れないと・・・
そして、やはり箸を置く。
ある年、祖母は亡くなり。
それから我が家の食卓にしめ鯖が並ぶことはなくなった。
長い月日が流れ、大人になった僕は酒を嗜むようになり、しめ鯖を好むようになった。
『いや、きっとお婆ちゃんの味が懐かしいのさ』
と独り言ちて酒を飲む(笑)
この記事を「らくぼくろ」さんがご紹介下さいました。
おじいちゃんやおばあちゃんの作っていた「おいしいような、イマイチだったような、、、そんな懐かしいお料理」など、ございましたらどうぞ記事にしてお知らせくださいませ。
*祖母は付け酢の中にサバを入れっぱなしにしていた。田舎の作り方なのか、冷蔵庫のない時代の防腐のためなのか、それは僕には分からない。
*祖母は、岐阜の郷土民話や妖怪譚にも詳しいちょっと変わった人だった。僕の昭和スケッチ番外短編集「美濃近郷夜話」にも度々登場する。
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(©2025Yu Morio This picture and text are protected by copyright.)