ラブ・デンタルクリニック
歯医者が嫌いじゃない。
私はここ1年とちょっと歯医者に通っていた。長すぎる。同僚にも「え、定期検診じゃなくてまだ虫歯の治療?」と言われるほどだ。1年とちょっと前に、虫歯がいっぱい見つかったのだ。
この1年とちょっと、歯医者に取られた時間を考えると月に3回、1回で30分だとして20時間くらいになるだろうか。有限である時間を大切にしがちな某社長とかYouTuberあたりには、ため息をつかれるかもしれない。
しかし、私は痛くさせられる治療以外は歯医者が嫌いじゃない。しかも、自分が子どもの頃に比べると、格段に痛く無くなっている。
歯型を取るときに付けられるあのクチャっ…と音を立てる「何か」。それを外すときカパっと音がするのもまた良しだ。その「何か」を私は目で見たことがない。手で触ったこともない。実際どれくらいの柔らかさなのか、果たして伸びるのか、何色なのか、どんな形なのか。見たい気もするがずっと自分の想像の中の「何か」でい続けてほしい気もする。
麻酔もそうだ。先生の「まず、表面麻酔かけます」「ちょっとチクッとしますねー」という言葉の後に訪れる、少しの甘美さを与えてくれる麻酔の時間。訪れると「これは嫌いじゃないな」と毎回思う。
また、歯科助手さんに「お水出まーす」「奥吸いまーす」「しみたら教えてくださーい」と言われるのも好きだ。名前がついた一個人ではなく「自分は歯科助手」であるという意識を感じる優しくあたたかな声音。子どもが泣き喚く中で、あの声の貢献度は大きいと思う。
あるとき、受付で金額が350円だった。安すぎる。思わず「安いですね」と言うと「はい、次の予約はどうされますか?」とすぐに言われた。恥ずかしくなった私は、ドアにぶつかりながら急いで歯医者を出た。
「はい、絶対寝る前に歯間ブラシを使ってください」最後の方の治療でそう歯科衛生士さんに言い切られた。絶対なんだ。私、そんな酷いっすか。それが自分の中のルーティンに定着するまでにまだ時間がかかりそうだが、やることにした。あの「嫌いじゃない歯医者」に通わなくても済むように、続けてみようと思う。