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りん
2020年5月27日 21:10
その8時間後、マキは既に清潔とは言えなくなったシーツの上で目を覚ました。 隣に黒川はいない。机の上に彼のメモで「精算済みです。ゆっくりしていってください」とあった。 昨夜のことを思い出す。恐らくはずっと気づかないフリで夢見ていた、あまりにも甘いひと時がそこにはあった。 しかし、それよりも気になったのは夫のタカオと娘のかなえのことである。友達の家に泊まる、と彼には言ったが、結婚してから人の家
2020年5月27日 20:16
そもそも、マキが黒川と関係を持ったのは半年ほど前だった。ジム通いが初めてだった彼女は、度々話し掛けてくれる黒川に安心感を抱くようになった。 そのまま数ヶ月が過ぎて、マキはふと、然して遡る必要のない過去に経験した感情を、彼に抱いていることに気づいた。彼がいると思うととてもワクワクするのに、なぜか痛い。針でチクリと刺されたような時もあれば、まるでナイフで抉られたような、全て持っていかれる痛さの時も
2020年5月22日 16:32
マキは娘のかなえが小学校に行っている間、週4で介護職のパート、それがない日は時折ダイエットと体力維持の目的でジムに通っている。今日はジム、アクラスに行く日である。 彼女はアクラスの入り口を抜けると、受付にいる男性店員に会員証を出し、更衣室に行く。そこで着替えを終えると、慣れた手つきでランニングマシンを動かし始める。今日はどれくらいの負荷にしようか。とりあえず30分走ろうか。と考えている途中、ふ
2020年5月20日 19:42
灯油に一滴でも水が混ざるとストーブが使えなくなるように、マキの思考はそれに支配されていく。 夫の挙動がおかしい。マキがそれを感じ取ったのは、半月前の金曜日だった。大手証券会社に勤めている夫のタカオは、毎週金曜日はノー残業で帰宅し、8歳の娘とマキと夕食を共にするのが常であった。だが、同僚と飲みに行くから、とその日だけはいつもの習慣から外れた行動をとった。 マキは、その日を境に些細では