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ミステリ解説集

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記事一覧

推理

まず言葉の意味からおさらいしましょう。

推理:既知の事実から論理立てて状況を推しはかること(goo辞書より)

何を今更……と思うでしょうが、案外難しいものですよ。
こないだ名探偵コナンの再放送で「真相はわかった。あとは裏付ける証拠だけ」みたいな場面を見ましたが、”先に推測してその証拠を求める”というのは原理主義的には推理とは呼べないでしょう。
常に”この状況から考えられることはこう”でないとい

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あらゆる可能性

たしかホームズの言葉で、「全ての不可能を除外して最後に残ったものが如何に奇妙なことであってもそれが真実となる」というものがあります。

私はこれが大嫌いで、基本的には、これを言った人、引用した人全てを軽蔑することにしています。

何らかの事象において、"全ての不可能を除外できる"などというのは傲慢でしか無い……とは思いませんか?
そんなものはその人の頭の中にある可能性の範疇の問題でしか無く、その外

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他殺に見せかけた自殺

これで短編小説書こうと構想しててどうにも書けなかった供養塔のような記事です。

書こうと思った目的は、「"自殺に見せかけた他殺"はありふれてるから、逆をやってみたい」というのがありました。
意義としては、「犯人は誰?」というところで、"犯人は被害者自身"とシンプルに裏をかけるところが挙げられます。

ですが、問題点は多々あります。
・自殺をトリックによって他殺体に見せかけるのはいいとして、トリック

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第一発見者

推理ものにおいて、「第一発見者が怪しい」とはよく言われます。

第一発見者には、善意の発見報告と、犯人によるなりすましの2パターンに大きく分けて良いでしょう。
前者は特に問題にならないからいいとして、犯人がなりすましたときの事を考えてみましょうか。
基本的には死体の発見は遅れれば遅れるほど犯人に有利になるので(アリバイ範囲が広がり、アリバイのない人物が増えるので、相対的に犯人に対する疑いが薄まる)

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蜘蛛の巣

蜘蛛の巣

推理小説のみならず、探索ゲームあたりでも現れる蜘蛛の巣。
単純にその場所の状況を類推する材料としてとか、細部にまで気がつく観察力のある探偵の描写としても使われたりします。

そこまでは良いのです。
蜘蛛の巣が張ってる状況を、長い間誰も住んでいないことの根拠として利用されたりしますが、実際はそうでもありません。何故なら、蜘蛛は一日あれば巣を完成させられるからです。
これによってどのようになるかという

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意表の付き方

推理問題の犯人当てにおいて、出題者がやってはいけない事の一つは、安易に女性や老人を犯人に据える事です。

勿論男尊女卑とかなんて低次元なお話ではありません。
例えば、「状況的に体格面などの理由で女性には犯行は難しい、といった展開をしつつ、一見無理だけどこういうトリックを用いれば女性でも犯行は可能で、このトリックによって容疑を逃れていた人が犯人」なんてのであれば、正しく意表を付いた形になっていると言

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見立て殺人

最近は少し下火傾向な感じはありますが、まだまだ定期的に登場する"見立て殺人"についてお話してみようと思います。

まず、見立て殺人とは……あるものに見立てて事件が装飾された殺人のこと(Wikipediaより)です。
見立てる題材は、歌や詩(この二つは割と似たようなものですが)をよく見かけます。その次に本、他では過去の事件を擬えて、みたいなのも見たことがあります。
普通の事件と比べると、事件が連続し

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借金苦

※一応有料記事になってはいますが、無料部分のみで全てを読めるようになっています。

私が借金に苦しんでいたりお金を貸していたりするわけでは無いので悪しからず?

私には子供の頃(といっても中学生ぐらいの頃からですが)からの疑問が一つあって、それは「金の貸し借りで殺人なんて意味あるの?」ということです。
現実の殺人事件の動機として、金銭問題は痴情の縺れ、怨恨と並ぶ三大動機に数えられます(怨恨の中身も

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死因

古今東西の推理小説において、数多の死体が登場しました。死体が生み出される過程は作品によって様々ですが、死因自体はそれほどパターンがあるわけではありません。それぞれを場合分けして、この死体が出た時はこう、とか、書き手であれば、今回はこの流れでこういう死体を作るのが良いか、などといった基本的な考え方を考察していきましょう。

1.斬ったり刺したり殴ったり
斧や刀で斬る、ナイフで刺す、ハンマーで殴る、こ

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視点

トリックには直接関係なかったりすることもあったり、作品自体の根幹を成すこともあったりする”視点”について考えていきましょう。

視点整理の考え方を取り入れるメリットとしては、書き手にとっては、
・作中人物視点で持ち得る情報を管理しやすくなり、どこまでの情報を渡すかを整理できることになります。
副次的なこととして、作中探偵が解ける謎なのか、もしくは読者視点でないと解けない謎なのかを把握しやすくなるの

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情報の得方

今回しようとしているお話は、読み手が描いている内容からどのように情報を得ていくか?ではなく、書き手が作中探偵にどのように情報を与えていくか?ということに主眼を置いているため、どちらかと言わなくても書く人向けのお話になると思います。

まず、作中探偵が情報を得る方法は、凡そ2パターンに分かれます。
1.依頼を持ってきた人から話を聞く(所謂安楽椅子探偵)
2.事件を知った探偵が自ら捜査をする

1のパ

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完全犯罪

まず、完全犯罪という言葉の定義から。
犯罪の証拠をまったく残さないで行われた犯罪(コトバンクより)
犯行の手口が社会的に露見せずに犯人が捕まらない犯罪(Wikipediaより)
いずれも似たようなものです。基本的にはこれで良いでしょう。

では、どういう時に完全犯罪となるかを、Wikipediaの記述内の項目より考察してみましょう。
1.犯行が露見しない
2.被害者が見つからない
3.加害者が判明

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トリックの動機

以前私はどこかで「推理小説に動機は必要なのか?」みたいなことを言いました。
実際問題として動機なき犯行などほぼなく、動機があることでストーリーは始まる……と考えると必要でないわけはありません。ですが、「誰がどうやって犯行を行ったか?」のみに絞って考えると、動機はあくまでフレーバーになってしまうんですよね。

というようなことを書いて後、私の思考も少しは成長したようです。一つの疑問が浮かびました。そ

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断末魔の叫び

断末魔とは:死に際の苦痛。また単に、死に際

「断末魔の叫び」というのは、これより、「死に際の叫び声」として良いでしょう。
人死にが多い都合上か、ミステリでも様々な断末魔の叫びが登場するのですが、ことミステリにおいては、叫びの質よりは叫び自体にウエイトが置かれているように思います。

叫び声が上げられることで「死んだという事実」が確定し、声の時間より「死亡時間」が確定し、声の位置より「犯行現場」が

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