優しい映画に心洗われて『タレンタイム〜優しい歌』

感動。おすすめです。

2009年に制作されたマレーシア映画。
いつまでも胸にしまっておきたい青春のみずみずしさ。恋する歓びや友への想いは、民族の違いも宗教の違いも越える。“不寛容の時代”に届けたい、伝説の映画。映画は多民族国家マレーシアを映しだし、監督は様々な人々が混在する世界をそもまま肯定し、民族や宗教の壁を軽やかに越えるヤスミン・ワールドともいうべき世界を描きだした。遺作となった『タレンタイム〜優しい歌』は、彼女の死後に福岡と東京で映画祭上映。その後も、たくさんの人に愛され支えられ、自主上映が続けられ、映画を見た人のほとんどが、宝物のような映画、生涯のベストワンと語る伝説の映画となった。

引用:シアター・イメージフォーラム

とても優しい映画だった。
悲しくて切なくてシーンを思い返して泣いてしまう程悲しい現実も映し出されているけれど、それでも優しい映画という感想が一番似合う。

公開初日、たまたま運良く舞台挨拶の回にて観劇。アディバ先生役のアディバさんは登場した瞬間に分かるそのとても優しいお人柄、楽しそうだなワクワク。
「せっかくだから観た後に質問タイムにしましょ」と急遽上映スタート。自由か。笑


純粋な恋心
ユーモア
宗教、愛、生と死

全てが繋がっていく。

何とも言えない言葉にし切れない、生命的でそして神秘的なこの繋がりに、言い尽くせない感動が押し寄せた。

そしてそこに流れてくる優しい歌に涙。

なんだか言い尽くせない。
いや、だから映画なんじゃないか。


とても個人的な感動した点をいくつか。

ハフィズのお母さんは病に侵されている、そんな母親が息子ハフィズに語りかけるシーン。あなたが居てくれたらそれでいいのだと話すその優しくて穏やかな語り口が愛しかないひたすらに大きい母の愛だった。この空気がなんとも優しくて愛おしくて素晴らしかった。こんな女優になりたい。彼女から発されるその嘘のない愛に溢れる言葉に心動かされた。どうしたらそんな風に台詞を発することができるの?

全体を通して素直に演じている役者さんばかりで、その自然な雰囲気によりこの世界のリアリティを感じた。自然体だったな。

純粋な恋。10代のその若さと清らかさと真っ直ぐさにこちらも純粋にならざるを得ない。美しいと感じる程に素直で翳りがない。しゃべり過ぎな彼のお芝居にとても好感。濁しますが、ここ名シーン。

「苦しい時に人は輝く」という台詞が最も好きだったかもしれない。なんだかこの映画の核とさえなり得ると感じたし、監督が描きたかったのはそれなのかもしれない。刹那の輝き、儚さ、再現不可能な今、そんな様々なものが込められていた気がする。その台詞の前後の演出には息をのんだ。

食べることと生きること、死を食べて生きている私たちのこと、自己犠牲、幸福と不幸、なんだかそういうものが絡みあうシーンがあったのだが多民族国家であるマレーシアのお話だから描けるんだろうなと思って、たぶんマレーシア映画は人生で初めて観たのだが観られて良かったなと感じたシーンだった。

色んな人のストーリーが同時に展開。誰が主役か?どう繋がる?と最初は少し戸惑ったが、前評判の良さに心委ねて鑑賞。穿った目で観てしまう自分の悪い癖が最近気になっていたところだった。が、その治し方がこの映画に出会って分かった気がする。委ねる感覚。なにより彼らの純粋さによって純粋な心を取り戻せた。因果とかでなくただ純粋に起きてしまう事ってあるよね。赴くままに。

他にも好きなシーンはたくさんあった。笑える所もたくさん、心動くシーンもたくさん、考えることもたくさんあった。


上映後、アディバさんのアフタートーク。監督のヤスミンさんは51歳という若さで亡くなり、本作が遺作とのこと。アディバさんはヤスミンさんの作品に4作も出演されていてそれは思いも深いだろうと予想できた。アディバさんは彼女との思い出がたくさん浮かんでしまって涙が止まらなかったようで、それでも大切なお話を聞かせてくれた。彼女の最期の時をご兄弟から伺ったと。彼女の母は自分の娘が倒れたことでそれは子供のように泣いていた、そして母親自身も入院することになってしまった。もう打つ手立てはないから生命維持の為の装置を切るかという決断を迫られ、ご兄弟が母親にその許可を得る為に病室へ向かった。母親は決断し頷いたとほぼ時を同じくして彼女が亡くなったというお話だった。誰にもそのスイッチを押させなかったと。
このような愛と生命に溢れた作品を作り上げた人の最期はなんと粋なのかと、家族への愛だとしか思えなかった。

帰り際アディバさんと握手させて頂き、思いを伝えようにも涙で言葉が詰まってしまい、感謝しか伝えられなかった。笑顔で返してくれた。彼女の手は大きくて温かかった。嬉しかった。

写真撮りたかったよーーーー!

とてもオススメです。

2017/3/25
渋谷 シアター・イメージフォーラム
公開初日

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