【取材記事】身体・精神・社会的制限や抑圧を解き放つ すべての人も動植物も地球環境も包括する新しい服づくり
【お話を伺った方】
■性別や平均に合わせたサイズ表記を取り払い、誰もが着たい服を選ぶ
SOLITが生み出すプロダクトは、「健常者」や「平均的な体型」に限られた既存の服作りのルールを捉え直し、障害の有無やセクシュアリティ、体型に関係なく、誰もが着たい服を着る権利をもたらしてくれます。
和田さん:
従来のジェンダーや平均に合わせたサイズ表記を取り払って、誰もが着たい服を選べる点に重点をおいています。これまでは「女性だからレディースサイズの服を買う」ということが服選びの構造になっていました。けれど、そもそも誰もが同じ体型ではないし、表現したいスタイルも異なるものです。SOLITは「服が人を選ぶ」のではなく「人が服を選ぶ」というスタイルを基盤としています。
サイズは「S、M、L」という従来の枠組みではなく、ジェンダーレスに12サイズを展開。部位ごとにサイズ・仕様・丈を自由に選択できることから、実に1,600通り以上の組み合わせからカスタマイズが可能です。
さらにSOLITが大切にしているのが、「必要なものを、必要な人に、必要な分だけ生み出す」というものづくりの在り方です。ファッション業界が抱える「大量生産大量廃棄」の課題に対して、「完全受注生産」「最少ロット生産」のスタイルをとり、基本はゼロウェイスト。耐久性が強く、お手入れがしやすい素材を活用するなど、長く大切に着続けられるための工夫もなされています。
また多様な人たちの「着たい」「着られる」を叶えるために採用されているのが、「インクルーシブデザイン」という手法です。
和田さん:従来のファッション業界では限られた対象者を基準に服作りを行っていたことから、その基準から対象外とされてしまう人々の存在がありました。そのため私たちは、着衣脱に課題を抱える当事者と、身体・心理のプロフェッショナルである医療福祉従事者、デザイナーが仲間となり、企画段階から共に開発するという手法をとっています。
多様な人々を包括するSOLITは、身体・精神・社会的抑圧の制限を乗り越えて、誰もが「こうありたい」と願う選択肢を提示してくれます。さらに動植物や地球環境への配慮にも目を向け、どれも誰も取り残さない「オール・インクルーシブ」を体現するあらたなファッションの芽吹きを感じさせてくれるのです。
■ホスピタリティにあふれる、誰も排除しないSOLITの服
今回、新宿マルイ本館で開催されたポップアップストアでは、普段は主にオンラインでのみで販売しているSOLITのプロダクトを間近で体験してきました。
前述の通り、どの服も部位ごとにサイズや丈、仕様が選べるセミオーダー方式を取り入れているため、自身の好みや身体に合わせてカスタマイズできることが大きな特長です。
例えばジャケット「Dawn Jacket」では、伸びやすく、家 庭洗濯で丸洗いできるポリエステルツイルストレッチ生地を採用。「袖口」「ボタン」「サイドポケット」を好みの仕様から選べる上、袖丈も左右でそれぞれ異なる長さを選択できるため、多様な身体に適したカスタマイズを叶えます。
和田さん:指に麻痺がある方でも着脱しやすいよう「マグネットボタン」の選択肢を用意しています。背中には衿ぐりから脇の下にかけて縫い目を入れているため、可動領域を制限せず、車椅子を漕いだり吊り革につかまったりするときに、突っ張る感じが軽減されるようデザインされているのもポイントです。
実際に着用してみると、とにかく動きやすくて、軽い。ジャケット特有の窮屈さを微塵も感じさせない着心地に非常に驚かされました。さらに素材の選定にも工夫がなされており、着やすさはもちろんお手入れのしやすさもしっかりと考慮されています。
和田さん:
SOLITのプロダクトは、自分でアイロンをかけたり、クリーニングに出したりといった動作が難しい方でもご自宅で簡単にお手入れできるようポリエステルやポリウレタンの混合素材を使用しています。その多くは洗濯機で丸洗いでき、洗濯後に吊り下げておくだけで大きなシワが延ばせるので、アイロンなしでもシワが目立ちにくいんです。こういったお手入れのしやすさはもちろん着やすさやサステナビリティの観点から魅力を感じていただき、現状購買者の8割以上がいわゆる健常者の方々なんです。SOLITは障害者のためのプロダクトという概念ではなく、多くの人々が自分の望むものを自分で選ぶことができるファッションの在り方そのものを提示しています。
さらにSOLITが実践しているのが、作り手との公正なものづくり。多様な身体に適した服づくりは非常に手間ひまがかかるため、物価高騰など社会情勢を考慮しながら、半年に一度、価格設定の見直しを実施。適正な対価を支払うことで、対等なパートナーシップを確立しています。着用者のみならず、SOLITのプロダクトに関わるすべての人たちが健全であるための相互満足が叶う、ホスピタリティあふれる服を生み出しています。
■SOLITはあくまで「オールインクルーシブな社会」を実現するためのプラットフォーム
2022年には歴史ある世界最高峰のデザイン賞として知られる「iF DESIGN AWARD」で最優秀賞を受賞したSOLIT。受賞式に密着したショートドキュメンタリー「SOLIT! 明日に差す光 」では、代表取締役CEO田中美咲さんの「ファッションを作っているけれど、ファッションの会社ではないというのを揺るぎなくずっと思っている」と話す姿が印象的でした。SOLITとして本質的にどのような活動を目指しているのでしょうか?
和田さん:
現在のアパレル事業は、「オールインクルーシブな社会を目指す」というゴールを目指すためのひとつの具体例であり、「オールインクルーシブな社会とはどういうものなのか?」を示すためのプラットフォームだと考えています。ただ、人の多様性に応じたものづくりが普通のことにならない限り、目指す社会の実現は難しいため、さまざまな企業と協業したり、パートナーシップを組んだりすることで、他の産業でも弊社のエッセンスを取り入れていただき、オールインクルーシブな社会の基盤づくりに進めていきたいと思っています。
現在、SOLITが提供するファッションは、オールインクルーシブな社会の実現に向けた、ひとつのプロジェクトとして推進していると話す和田さん。では今後は、どのような活動の広がりを考えているのでしょうか?
和田さん:
現在SOLITでは一般のお客様のみならず、医療機関やホテル向けに特別にカスタマイズしたプロダクトを提供しています。今後はご賛同いただける企業や医療機関の方々に対して、例えば着て出歩きたくなるような病院服・リハビリテーション服をデザインしたり、多様な人たちがよりリラックスして過ごせるようなホテル服を作ったりと、事業者に対してプロダクトの導入促進を行っていきたいと考えています。さらに海外進出にも積極的に挑戦していこうというフェーズにあるため、現在は英国のファッションブランドや病院と連携して、デザイン制作なども進めています。
■「障害者=助けられる存在」という考え方から奪回したい
経済格差が広がる中で、生まれてしまう教育格差や情報格差の課題。新しい価値やサービスが生まれても、そもそもそこにアクセスできない人たちの存在もあります。とはいえ彼らを社会的弱者とみなし“助ける”ことが、果たして正しい支援のカタチなのでしょうか? そんな支援そのものへの難しさを和田さんに問いかけてみると……
和田さん:実はSOLITに入社する以前は、貧困国をどのように開発するかを考える開発学の研究職についていました。その中で、社会的に弱い人間を強い人間が助けなければならないという考えは、分断から生まれる支援の在り方だと思っていたんです。しかしSOLITが行っているのは、みんなが対等に暮らせるための基盤づくり。今の世の中は、「健常者」や「社会の平均」に合わせたものづくりやサービスが中心なため、そこからこぼれ落ちてしまう人たちも存在します。だからこそ彼らが生きづらさを感じず、対等に活躍できるインフラをまず整えていくことが重要だなと感じています。「自分は障害をもっているから何もできないんだ」と感じさせるような支援ではなく、彼らが持っている力を発揮し、活躍できる場を整えることが私たちSOLITのミッションでもあります。
そもそも「障害者」に対して、等しく弱者であるというレッテルを無意識に貼っていないだろうか。同時に「障害者だから〇〇」「女だから、男だから〇〇」という決めつけや、属性によるカテゴライズの無意味さにもそろそろ気づきたいものです。
和田さん:
身体に障害あることで“助けられる存在”になってしまうことが多いけれど、私たちはそういう考え方から奪回したいと考えているんです。例えば医療機関と協働して病院服をデザインしたときも、誰かに頼ることを前提にするのではなく、自立をテーマに自分で着られることを意識してデザインしています。私たちは弱い者を助ける存在なのではなく、個々の強さを信じ、ともに共に良い社会を作っていくというスタンスを大切にしていきたいです。
SOLITの代表・田中さんがさまざま場所で発信する言葉たち — 例えば「私たちを勝手にアイデンティファイしないで」「これは弱者のためのソリューションじゃない」— は、私たちの無意識な思い込みや画一的な思考を問い直し、多様で複雑な世界の在り方と向き合う機会を与えてくれるもの。
そして、SOLITのプロダクトを通して、「その人」が「その人」のまま、望むものを自らの手で選ぶ権利を手の内に戻してくれるようでもあります。
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