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いよいよ『SILENT HILL 2』が発売されるので、そのお祝いに思い出を焚べる。
2024年 東京ゲームショウにて
明日10月8日(火)に発売される『SILENT HILL 2』は、20年以上も昔に発売された同タイトル(当時は「PlayStation 2」用ゲームソフト)をもとにしたフルリメイク作品だ。
コナミデジタルエンタテインメント社が世に送り出したホラーゲームで、美麗なグラフィックとそれによって描かれる圧倒的な怖さから、多くのプレイヤーを震えあがらせてはコントローラーを投げさせた。そうしてカルト的な人気を手中に収めたこのゲームは、海外を含めた世界中のファンからずっと続編ないしリメイクの期待を寄せられ続ける。かくいう私もファンのひとりで、とはいえ「どうせ新作は出ないだろう」と諦念を握りしめていた。
そのシリーズのフルリメイク版最新作が、ついに発売される。
製作中であることが発表されても、発売日が告知されても、どこか別世界のように感じていてなんとも実感が湧いてこなかったのだが、先日ゲームの祭典である「東京ゲームショウ2024」にて大々的な『SILENT HILL 2』のPRを目の当たりにして、ようやく「ああ、本当に出るのだな」と感慨が深くなった。同時に、霧が晴れるように『SILENT HILL 2』の思い出がぶわっと脳内に咲いたので、勢いnoteを開いた次第だ。
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写真は三角頭(右)とバブルヘッドナース(左)。
そのため、ここから書くのは「2000年代前後に焦点を当てたゲーム業界の歴史や動向」といった含蓄のあるものではなく、ただただ私とサイレントヒルの馴れ初めみたいなものだ。同じく『SILENT HILL 2』を楽しみにしているファンやホラーゲーム愛好者たちと一緒にお祝いできたらいいなと思いつつ、「ええい、そこまで言うならやってみよう」と、新たに興味を持ってくれる方がいたら慮外に嬉しいことである。
申し遅れたが、私は竹谷彰人という。ゲームイラスト制作会社ミリアッシュの代表で、ゲームが大好きな人間だ。
1996年 『バイオハザード』の衝撃
いきなり別タイトルの話となるが、1996年に「PlayStation」用ゲームソフトとして発売された『バイオハザード』は、ホラーゲームという現在では当たり前のジャンルを”ジャンル”として確立させるのに大きな役割を担ったキラータイトルで、現在も新作や映画がコンスタントに製作されたり、ハロウィンの時期になるとユニバーサル・スタジオ・ジャパンでコラボアトラクションが出たりする人気シリーズだ。
当時小学生ながらもゲーマーの萌芽があった私は、「富豪の松本くんがヤバいゲームを持っているぞ」と友人づてに聞きつけては、矢も盾もたまらず松本くん宅に上がりこみプレイさせてもらった。結果多くのプレイヤーたちと同様、圧倒的な”新しい”恐怖を眼前にし、しばらく狭い廊下を怖がるほどとなった。それほどまでにバイオハザードのプレイ感は独特鮮烈で、過去に味わったことのない体験だった。自宅のトイレでさえ夜には行けなくなるような極度の怯懦ぶりだったが、バイオハザードの持つその面白さに魅了され、続編が発売される度にビクつきながらプレイしていた。
そのバイオハザードを追いかけるようにして、1999年に発売されたのが初代『サイレントヒル』だ。のちにこれまた伝説的なホラーゲーム「SIREN」シリーズを作りあげ、現在はBokeh Game Studioの代表をされている外山圭一郎さんがディレクターを務めた作品だ。
一人娘のシェリルを連れて、休暇先に出かけた主人公ハリー・メイソン。
夜道に突然、飛び出してきた人影に、過って事故を起こしてしまう。
崖下に転落した車のなかで目覚めたとき、車内に娘の姿はなかった…
このあらすじだけで、隠せない上質なホラーみを感じていただけるはずだ。
さて、そのころ中学2年生というローティーンからハイティーンへの橋を渡っていた私は、すぐさま飛びつくかと思いきや意外にもこれをスルーしていた。理由を思い返すに、迫りくる高校受験を気にしていたのかもしれないが、どちらかといえばたぶん金銭的に余裕がなかったのと、おそらく本当に怖かったのだろう。光回線どころかインターネットさえ普及していない時代だったからか、プレイヤーの感想を見聞できるメディアは周囲になく、その反面妙に不安感のあるCMが放送されていたことだけは覚えている。現在ではだれしもが耳にしたことがある”貞子”を世に解き放ったジャパニーズホラーの金字塔『リング』、その作者・鈴木光司さんが推薦文を書くような肝煎りのタイトルだった。
『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』などの王道RPGが大好きで、『バイオハザード』をプレイしてちょっぴりおとなさ、と思っていた私が「サイレントヒル」シリーズにしっかりご挨拶できたのは、現在の世界にとって不可欠な存在であるインターネットが登場したからだった。
2001年 『バイオハザード』から感染った先
まだバイオハザードの流れが続くのかとお思いかもしれないが、結局私はバイオハザード愛に満ちた青少年として中学を卒業し、製薬企業アンブレラ社のとてつもないヤバさに驚愕し、T-ウィルスやG-ウィルスの開発過程やクリーチャーたちのビジュアルに興奮し、ホラーの底なし沼にガブガブ浸かり、取り憑かれていった。
そして時計の針が少し進んだ2001年、ブロードバンド元年と呼ばれるこの年に、我が家にもインターネットが満を持してやってきた。ちなみに自宅用のメールアドレスを決める際、当時ハマっていたバンド「グリーン・デイ」から引っ張ったので、いまでも父のPC用メールアドレスは彼自身一度も聴いたことがないgreenday@のままである。
Wi-Fiもスマートフォンもないので、PCにかじりついてバイオハザード関連の事柄を検索した。Googleもまだ知らなかったのでYahooでググった。ブログという概念もなく、HTMLでこしらえた個人製作のWebサイトや「魔法のiらんど」を使用したサイトなどがあまた割拠していたように覚えている。
そのなかにあったひとつが、知る人ぞ知る、いやおそらく知らない「バイオハザード・サイレントヒルを考える会」だ。
世はまさに個人系Webサイトの大海賊時代で、西村博之さんが開設した「2ちゃんねる」や、”先行者”で有名なテキストサイト(現在でいうブログ的なもの)の「侍魂」などが流行っていたなか、陽炎さんという方が開設した「バイオハザード・サイレントヒルを考える会」・通称”バイサイ考会”も、その両タイトルが好きなファンの界隈では大人気のWebサイトであった(と盲信している)。「ここに穴があった いまはもうない」という名文がサイレントヒルにはあるのだが、悲しいことにそのWebサイトもいまはもうない。
私はそのバイサイ考会で掲示板という機能を初めて知り、スレッドなるものを立ちあげてみたくて(ろくすっぽ調べもせずに)こう質問してみた。
「バイオハザードは大好きなのですが、サイレントヒルは知りません。どんなゲームですか?教えてください」
ひとつの書きこみが人生を変えることもあるのだなと、いましみじみ思う。
そうして私は、バイサイ考会とともに、サイレントヒルにも出会った。
2002年 「バイオハザード・サイレントヒルを考える会」に住む
当時バイサイ考会の住民たちがどれほどモチベーション高く通い詰めていたかというと、バイオハザードやサイレントヒルのインスパイア作品『ゾウディアック』というゲームを作ってしまうレベルで、そのWikiを見ていただければ、彼彼女らがどれだけホラーゲームを愛していたかわかっていただけるにちがいない。
ちなみに、このWikiを立てた有志たちが「バイオハザード・サイレントヒルを考える会」のアーカイブを残してくれているので(もちろん機能は停止しているが)よければ当時の雰囲気を味わってくれればと思う。見返してみるとすべて当たり前に非公式で著作権など”ちょ”の字も出てこず、ややもすれば失礼だとさえ感じる部分もあるが、良かれ悪かれ2000年前後なリテラシーそしてモラルの反映された内容だと思う。
さて、ここまで書くということは私も多分に漏れずバイサイ考会を住処とし、毎日アクセスして掲示板に新しく訪ねてきたひとを歓迎したり、夜遅くまでチャットで会話したり、バイオハザード大喜利みたいな催しに参加して滑ったりしていた。
話を戻すと、掲示板でサイレントヒルについて尋ねた結果、すべからくプレイすべしという助言を賜り、まずは『サイレントヒル』の無印をプレイしてみた。あまりの怖さに、高校2年生にもなって恥ずかしいことだが、目的地まで走り抜けるために目をつぶってコントローラーを操作した。あとにも先にも、目隠しでゲームを遊んだのはこのタイトルだけだ。また、住民同士のやり取りから、サイレントヒルが「静岡」と隠語のようにカッコよく呼ばれていることも知った。
なんとか恐怖に打ち勝ちクリアして、次は『サイレントヒル2』を買った。先述あらすじを引用したように、1は突如消えた愛娘を追いかけて、カルト的な儀式によって異変が起きた町をさまよい、濃霧のなか出現する異形と相対するストーリーだ。
それに対し、2はどちらかといえば非常に内面的な物語で、死んだ妻からなぜか手紙が届き、導かれるように思い出の地を訪れる。1と同じく町には濃霧が立ちこみ異変が生じているが、クリーチャーたちはどことなく苦しそうな外見をしている。辛苦の味濃く漂う裏世界と対峙しながら、主人公は妻の待つ場所へと向かう。霧で白く染まった風景や艶やかなクリーチャーデザイン、そして怖くて優しい音楽。すべてが私に趣味嗜好に突き刺さり、夢中で何度もプレイした。あまりの怖さに、攻略本で予習してからでないと進められなかったが。
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バイサイ考会を通じてサイレントヒルを知り、サイレントヒルを通じてバイサイ考会にもっとのめりこんだ。行きたくもない学校に毎日行き、やりたくもない勉強をやり、一刻も早く引退したい部活動に出る。その繰り返しだった人生において、大学生や社会人や人妻(そう自身を表している方がいた)のまぜこぜとなったインターネットの世界は、未成年はそろそろ寝なさいとチャットで注意されるほど開放的で魅力的だった。ちなみにハンドルネームというものを初めて名乗ったのもここで、そのときよく聴いていたパンクバンドからもらって「メスト」と名乗っていた。
左様なまでに、私のなかでは初めてのインターネットの衝撃と「サイレントヒル」がセットとなっていて、ゲーマーにとって難題である「一番好きなゲームはなんですか」と問われると、熟考のすえ結局『サイレントヒル2』と応えている。
さて、現在に戻っていま、私はミリアッシュというイラスト制作会社を設立し、それから毎年のように東京ゲームショウへ出展を続けている。「出展社となることでゲーム業界へ恩返ししたい」とか「会社の存続する可能性をわずかでも高めるため」とかマジメなことを言っているが、とどのつまりゲームが大好きでそのお祭りを一緒に楽しみたいからだ。
今年も当然の権利のように出展し、初日の早朝にせっせとブースを飾っていた折、右斜め後方から妙に慣れ親しんだ空気を感じた。「たしかコナミさんの展示があったはず」と思いながら、そそくさと向かうと。
大きく大きく、『SILENT HILL 2』の映像が流れていた。
サイレントヒルだ。
思わず、声に出していた。20年以上前に発売されたゲームが最新作となり、最先端のゲーム機ならではの美しいゲーム映像が流れていた。あのころ恐怖の対象でしかなかったクリーチャー・バブルヘッドナースが、四肢をぎこちなく動かしながら私にパンフレットを渡してくれた。
不思議な気持ちが沸き立っていた。もしかしたら、タイムスリップで時間を越えたときは、こういう感覚に近いのかもしれない。
かつてサイレントヒルというゲームの内外でさまざまな刺激と体験を得た人間が、比べるにとても小さいブースではあるものの同じ出展社として同じ場に立ち、同じ祭りを踊っている。あまり普段思わないことだが、これまでの人生の選択に対し、よくやったと自らを誇らしく思った。
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バイサイ考会の皆さん、聞こえますか?
あのとき毎日のように足繁く通っていた高校生のメストは、いまゲーム業界の片隅を終生の住処とさせてもらいながら、『SILENT HILL 2』の発売をまだかまだかと心待ちにしています。きっと皆さんにおかれましても、”いぬエンディング”を観たときのような高いテンションで、遠くバラバラな町の濃霧のなかでも同じ三角頭を見あげていることと思います。
またいつの日か、静岡のもとで集えることを願っています。
などと、小恥ずかしい手紙のようなものをここに置いておく。この世界は意外と他人に興味関心がないようでいて実は割りかしあると考えているからだ。こうした発信が未来どこのだれに届くかは神様仏様でもわからないことで、いますぐにではなくとも、数年後再会のきっかけになってくれたらいいなと思っている。なにせ『SILENT HILL 2』は、手紙から物語が始まるのだ。
明日 サイレントヒルが再び始まる
ここまで読んでくれれば、「バイオハザード・サイレントヒルを考える会」がいかに素晴らしいWebサイトだったかをおわかりいただけたはずだ。そして力強く拳を握って私がそう言えるのは、バイサイ考会の住民の皆さんの存在は当然として、『バイオハザード』と『サイレントヒル』の両シリーズがどこまでも面白い珠玉のゲームタイトルだからである。
ということで、本当の本当に、明日10月8日ついに『SILENT HILL 2』が発売される。せっかくなのでトレーラーを下記に貼っておいた。よろしければぜひ観ていただきたい、怖くないので。
この雰囲気。これぞサイレントヒル。大好き。
ほかにもサイレントヒルを味わえるものとして、先日配信開始された『SILENT HILL: The Short Message』もオススメだ。なんと無料で遊べる。そしてすごい怖い。
また、1960年代の日本を舞台にした完全新作『SILENT HILL f』も製作が発表されている。
フルリメイク版『SILENT HILL 2』を皮切りに、もっとシリーズのファンが増えていきますように。そしていつか「5」が発売されることを期して、これらの祈りを当エントリーの結びとしたい。
最後に、東京ゲームショウのコナミデジタルエンタテインメントブースにて配布されていた『SILENT HILL 2』のTシャツを着てニヤニヤしている私を貼っておく。首につけている磁気健康ギア・コラントッテがなんだかシリーズおなじみ「メトラトンの印章」に見えなくもない。
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思い出話にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。