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先祖供養はなぜ悪徳商法に利用されるのか


 私は、ココナラさんのサービスや、あるいはこのnoteなどで「先祖やルーツ」に関わる調査や研究をしています。

 そのため、「先祖」「家系」「歴史」といったものには、一応造詣が深いということになっているわけですが、昨今問題になっている韓国の宗教団体である「○一教会」では、『先祖解怨』という名称で何代もの前の先祖をお金で供養して、それによって「不幸が消える」と説いていると言います。

 それ以前から、この教団に関しては「壷」の販売など、悪徳商法・霊感商法の話題が尽きなかったわけですが、ことに「先祖」の話となると、私も黙っていてはいけないと思い、少し説明することにいたしました。


 問題となっている○一教会での「先祖解怨」では、420代もの先祖に遡って何がしかの儀式をすることで、「先祖が地獄に落ちずに済む」と説くそうです。
 その儀式にかかる費用は500万円を超えるとか!

 いくら信教の自由があり、「何をどのように信じても自由」かもしれませんが、少なくとも「先祖とは何か」「ルーツとはどういうものか」について、最低限の知識があれば、上記のような教義はおかしいとすぐに気づくはずです。


 もちろん、すべての人にルーツがあり、先祖がいます。そりゃあ420代前の先祖も存在することは事実でしょう。ざっくり科学的に言えば、多くの人類は20歳前後で子孫を残しますから、420×20年をかければ「8400年前」という答えが出てきます。8000年前とは縄文時代です。

 冷静に考えれば、「縄文時代の人間が地獄に落ちていて、その恨みが現代まで続いているから、あなたやわたしは不幸なのだ」という話をしているわけですね。

 ちなみに、現在西暦2022年ですから、これまたざっくり考えて、イエス・キリストが生まれて2000年くらいしか経っていないわけです。
 ○一教会は、いちおうキリスト教を名乗っていますから、イエスが生まれていない、その前6000年に遡って人類を救わねばならないという教義ですから、「ちょっと何言ってるかわからない」という話なのですね。

 仮に、仏教で考えても、釈迦はもっとも古くて「紀元前7世紀の人」とされているため、せいぜい2700年前の人です。シャカすら生まれていないのに、縄文人の霊を供養しなくては不幸が訪れる、と言ってるわけです。さらに「何言ってるかよくわからない」ですね。


 さて、○一協会では1999年くらいまでは「120代前の先祖」を対象としていたようです。今はさらにお金を集めるために、代数が増えているのでしょう。

 120代だとしても2400年前です。弥生時代です。あんまり変わりませんね。縄文土器、弥生土器、どっちが好き?って感じです。


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 まあ、結論から言えば、120代だろうが、420代だろうが、そうした長い年月の代数の先祖が、今も霊として災いをなしているという説は、かなりバカバカしいものです。もし本当にそんなことが起きるのであれば、420代どころか、500代とか1000代とか、アウストラロピテクス時代の先祖や、ピテカントロプス時代の先祖の気持ちも労らなくてはいけません。なんなら単細胞生物時代のアメーバにも、供養としてプランクトンを捧げたくなるほどです。

 だから、先祖供養をお金に換算するのは、そもそも悪徳商法だと言えるわけです。


 さて、ではここから「先祖とは何か」について基礎的な知識を身に付けておきましょう。それが悪徳霊感商法に騙されないための教養になるからです。


◆「誰の先祖もみな、人殺しである」

 まず、大事なことから。

 戦国時代をはじめ、日本は長い戦乱を経て現代に至ります。その中である程度、領地やそこから上がる年貢、食料を持って生き延びてきたのは戦国武将やある程度の「高い地位の人たち」ということです。ですからたいていの場合、みなさんの先祖はいっとき「武士もしくは武将」のような生き方をしており、たいていの場合「誰かを殺して生き残っています」

 全員がそうです。そうでないと血筋を残せていないということですね。
 あるいは、あなたの苗字の直系血筋はそうでないかもしれませんが、どこかで結婚した相手の先祖が武将でしょうから、100%に近い確率で、先祖は人殺しだと言えます。

 だとすれば、みな平等に先祖には呪いがかかっていますので、今幸せな人にも、今不幸な人にも、全員等しく呪いがかかっていることになります。
 先祖のうち「ヤバい、強い武将の子孫が呪いで不幸になっていて」「弱い、へなちょこ武将の子孫は呪いが少なくて幸せ」ということはありません。そんなのはナンセンスです。全員人殺しなのですから。


 ◆「誰の先祖もみな、身分の高い・地位の高い人間である」

 徳川時代の江戸では、男性2に対して女性1くらいの男女比になっていたそうです。当然半分の男性は子孫を残していません。なぜそうなるかというと、跡取り息子は嫁をもらい子孫を残しますが、次男や三男は家督を継げないので都市へ出ていったり、独り身で過ごすからです。

 ということは現代まで続くあなたがいるということは、どこかの段階までは、先祖が「跡取り息子でボンボンで領主やお殿様、あるいは庄屋のような立場だった」ということを意味します。
 戦後の高度成長期などに都市へ多くの人材が流出して人口が爆裂するため、自分が高貴な生まれであることを知らない人が多いですが、少なくともどこかの段階までは必ずそうです。分家を立てるにも経済力が必要でした。だから直系・本家筋の人間でなくても、かならずその一族として高貴な立場です。

 ちなみに、「先祖代々、農家である」という人はいません。農家というのは徳川家康によって検地刀狩りで農民身分に固定されただけで、それ以前は領地を持った武将です。ですから人殺しの子孫が生き延びている話とつながります。またその領地が、今みなさんの田舎のおじいちゃんの家のたんぼになっています。たんぼの所有権の発生は、武将時代の領地に由来するのです。


 ◆お墓の発生は、暴れん坊将軍吉宗のころから

 古い旧家で、先祖代々のお墓があるおうちもあるでしょう。けれど、一番古いものを見ても、おおむね享保年間とかその前後しかないはずです。それくらいの時代に「お墓」が持てるようになったので、そこからしか存在しないのです。

 ごくまれに、めちゃくちゃお殿様の家系みたいなおうちがありますが、そのお殿様のお墓でも、江戸初期や戦国時代には「石を積んだ塔」みたいな形をしていて、名前も何も刻まれていません。「あれはどこそこの殿様の墓だよ」と伝承されているくらいで、実際には誰のものかよくわからないのが実態です。

 なぜかというと、その頃は、先祖を供養し、先祖を祀る対象はお墓ではなく「位牌」だったからです。なので戦乱や災害の時には「位牌」を持ち出して守りました。位牌は石ではなく、木製などが多いので、よほどの好条件でないとあなたのおうちには残っていないと思います。つまり、先祖が誰でどうしていたのかは、そのくらいになるとよくわからないのです。

(系図があっても、正確かどうかは判定できないのが実情です)


◆ 先祖が地獄に落ちているかどうかは、まったくわからない

 そもそも、先祖というものは、地獄に落ちる前に生前何をしていたかなんて、ほとんどわからないものです。せいぜい私たちが知ることができるのは、「ひいおじいちゃん」くらいのものです。それくらいの人物については、親戚から話が伝聞で伝わることがあるでしょう。

 それ以前になると、よほどの名家名族でないとわかりません。「武士だったらしいよ」「庄屋だったらしいよ」くらいしか伝わりませんし、先ほど説明したように、たいていの先祖は「武士で庄屋」ですから、武士か庄屋だと言っておけば9割方外さないのです。天皇家以外は。

 もっとひどいことを言います。祖父や曾祖父はともかく、曾祖母など女性についてはまったく不明です。ひいひいおばあちゃんは何をしていたの?と聞かれても「・・・主婦?」としか言いようがありません。家にいて、奥を司っていたくらいしか言いようがないのです。女性は社会進出していないので。
 地獄や来世どころか、現世で何をしていたのかすら、わからないわけです。むしろ女性は地獄に落ちる以前に、家庭内で苦労していた可能性だってあります。そっちを供養すべきですよね。


◆ 伝わるものは、実はひとつしかない

 お墓と言えども「ある期間から後ろ」しか伝わっていません。「位牌」も一部しか残っていないでしょう。ひいひいおばあちゃんの業績はまったく不明です。そして何度も言いますが先祖は人殺しです。

 そんな状態で、先祖が今の私たちに何を残してきたかというと、実は伝わっているのは「DNA」「子孫」だけなのです。いのちが繋がっている、いのちを残しているということだけが、先祖と子孫の繋がりの一番重要な部分です。

 だから先祖から見て、一番大切なのは「自分たちの子孫が、元気にやっているかどうか」ということだけなんですね。それだけが、人類の未来へつなぐ希望なのです。

 先祖がどんな功績を残したかとか、どんな生き方をしたかとかは、少しの期間は覚えてもらえますが、数代後には無意味です。だから人殺しであってもよいし、一介の主婦であってもよいのです。その時代にあった姿で、いろんな環境で一生懸命生きて、そして子孫を残したんだ、ということしかないからです。だから今の私たちも、瞬間的にはどんな生き方でもかまいません。その内容はどこにも残らないからです。


 こういうことをざっくりでも知ると、「先祖が子孫を呪う」とか、「霊障がある」とかが、まったくナンセンスだとわかるでしょう。先祖はそんな次元で生きていません。それより、今のあなたやわたしと同じで、「今の時代を生きるのに必死」だからです。そしてさらに言えば「子孫が続く」のは、それがどんな形であっても「喜び、幸せ、希望」以外の何ものでもないのです。

 今、ウクライナでは戦争が起きています。ウクライナ人から見れば、自分の子や孫が人殺しになったとしても致し方ない、と思っています。けれど、なんとか生き延びてほしい、子孫が幸せになってほしい、と願います。

 どこの誰が「ワシは、未来のウクライナのこどもたちを呪ってやる〜」と思うでしょうか?そんな人がウクライナに一人でもいるでしょうか?


 そういうことなんです。だから、霊感商法にはどんな理屈を並べても騙される必要はありません。これは先祖調べの専門家が言うのだから、間違いありません。

 さあ、では私から100万円の家系図を買ってね!(笑)

※家系図作成はやってませんのであしからず。

 

 



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